脳にあるニューロンの活動を再現可能なデバイスが発明される
現代の科学であっても、人間の脳と同じレベルの計算能力を持ったコンピューターは実現できておらず、これは単一で人間の脳にあるニューロンの動作を再現できるデバイスがないためとされていました。しかし、メモリスタを使用したニューロンの計算能力を実現可能なデバイスが、ヒューレット・パッカード(HP)研究所の研究チームにより発表されています。
Third-order nanocircuit elements for neuromorphic engineering | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2735-5
Memristor Breakthrough: First Single Neuron To Act Like a Neuron - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/nanoclast/semiconductors/devices/memristor-first-single-device-to-act-like-a-neuron
HP研究所のスハス・クマール氏らによる研究チームは、ニューロンの活動電位に似た電気信号を出力可能な約100ナノメートルのデバイスを発表しました。以下の画像が研究チームによって開発された、抵抗・コンデンサ・モットメモリスタを兼ね備えたデバイスの拡大図です。
そして以下の画像がデバイスの構造を表したイメージ図。デバイスは白金(Pt)・窒化チタン(TiN)・酸化ニオブ(NbO2)・二酸化ケイ素(SiO2)・窒化シリコン(SiNx)・タングステン(W)によって構成されています。モットメモリスタは、通過した電荷を記憶して抵抗値を変えることができるメモリスタの特性に加え、温度によって抵抗の値を変更できるという特性を持っており、酸化ニオブで発生するモット転移と呼ばれる温度に応じて金属が絶縁体になる現象を利用して、同特性を実現しています。
デバイスに直流電圧が加えられると、酸化ニオブが加熱され、絶縁体から導体に遷移します。この遷移が発生した際に、デバイスに蓄積された電荷がコンデンサ部分へと流れ込みます。その後、デバイスが冷却されると酸化ニオブは絶縁体へ遷移し始め、ニューロンの活動電位に似た電流のスパイクが生じたと研究チームは報告しています。
研究チームの1人であるテキサスA&M大学のR・スタンリー・ウィリアムズ氏は、デバイスを実現するために約5年を費やしたと述べています。ウィリアムズ氏によると、実験に成功したデバイスの構造は材料の種類や量、デバイスに加える温度、電流などの粘り強い微調整を経てたどり着いたもので、偶然発見できるようなものではなかったとのこと。「この組み合わせはすべてが完璧である必要がありますが、一度作ってしまえば、非常に堅牢で再現性のある組み合わせでもあります」とウィリアムズ氏は語っています。
なお、酸化ニオブがモット転移を起こすのは約800度というかなりの高温であるという欠点があることから、デバイスの実用化は難しいそうです。デバイスを実用的なものにするため、クマール氏とウィリアムズ氏は異なる温度でモット転移を起こすことができる他の材料の調査を計画しています。
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