スマートウォッチは車椅子ユーザー向けにもっといろいろなことを提供できるようになるという主張
スマートウォッチやフィットネストラッカーの登場により、手軽に日々の活動量が計測できるようになり、運動やちょっとしたエクササイズが楽しくなったという人も多いはず。しかし、そんなスマートウォッチが起こしたフィットネス革命から車椅子ユーザーは取り残されていると、スポーツ関連メディアのFiveThirtyEightが主張しています。
Smart Watches Could Do More For Wheelchair Users | FiveThirtyEight
https://fivethirtyeight.com/features/smart-watches-could-do-more-for-wheelchair-users/
車椅子ユーザーがスマートウォッチやフィットネストラッカーの活動量測定から取り残されている理由について、FiveThirtyEightは「歩数を測るように簡単に車椅子での移動を測定することはできないから」と説明しています。2014年のある研究によると、障害者と健常者の間で活動量は21%も差が出ることが明らかになっています。
健康のためにも車椅子ユーザーが日々の活動量を測定できるようなツールが必要であることは明らかであり、実際、2016年にはApple Watchが車椅子ユーザーの活動量測定をサポートし、「車椅子ユーザーが1日に何度プッシュ(何度手でこいだか)したか」を測定できるようになりました。さらに、2017年3月にはランニングやサイクリングに特化したソーシャルネットワーク機能付きの運動追跡サービスであるStravaも、車椅子のサポートを開始しています。しかし、これらは健常者向けのアクティビティ追跡機能ほど上手く機能していないとFiveThirtyEightは指摘。
2017年にサンディエゴ州立大学の研究者らが行った調査によると、Apple Watchなどの車椅子ユーザー向けの活動量測定機能を提供しているスマートウォッチは、高頻度のプッシュ動作は正しく検出できるものの、日常生活で行われるような低頻度のプッシュ動作の検出には向いていないそうです。
また、2019年にフィンランドとオーストラリアの研究チームが発表した研究によると、Apple Watchのプッシュカウント測定のエラー率は平均で13.5%だそうです。これは「個人が1日のプッシュ数をチェック」したり「集団のプッシュ数をおおまかに測定」したりするにあたっては許容範囲内ですが、「医療従事者が健康指標として使用する」というような正確なプッシュ数測定だと不適当なものだとのこと。
実際の活動量を100%正確に測定できるスマートウォッチやヘルストラッカーは存在しないため、「活動量測定機能の精度が甘い」ということは大抵のユーザーにとっては大きな問題ではないように思えるかもしれません。しかし、例えば国の代表チームに所属するようなアスリートにとっては、正確に活動量が測定できないということは大きな問題となる可能性があります。
また、スマートウォッチが測定したデータがどのように扱われるかも重要です。なぜなら研究者が研究論文などに測定したデータを使用する可能性もあるから。研究などで使用されるスマートウォッチで測定したデータが正確なものでなければ、車椅子ユーザーのために発表された研究論文も障害者の助けにはなりません。
ブリティッシュコロンビア大学のウィリアム・ミラー教授は、Apple WatchやPushTrackerで測定できる「車椅子ユーザーが何プッシュしたか」という情報の正確性を確かめるための研究プロジェクトを発表しています。ミラー教授は「信頼性が高い正確なテクノロジーはユーザーに積極的に身体活動を促す動機を与えることが示されています」「車椅子ユーザーの身体活動レベルが低下しているため、車椅子ユーザーの活動量測定の正確性に関する情報は、手動の車椅子ユーザーにとって特に重要です」と述べています。
FiveThirtyEightのライターであるJohn LoeppkyさんもApple Watchのプッシュ数測定がどの程度正しいのかを実際に検証すべく、廊下にカーペットを敷いて規則的に行き来するという実験を行ったそうです。2019年に公開された研究では、Apple Watchはプッシュ数を過小評価する傾向があることが明らかになっていましたが、Loeppkyさんが実際に調査したところ逆にプッシュ回数を過大評価する傾向にあることが判明したとのこと。
以下はLoeppkyさんによる検証結果をまとめたもの。左が「PUSHES AS COUNTED(実際のプッシュ回数)」で、右が「PUSHES VIA APPLE WATCH(Apple Watchが計測したプッシュ回数)」で、実際のプッシュ回数よりもApple Watchが計測したプッシュ回数の方が多いことがわかります。
Loeppkyさんはスマートウォッチやヘルストラッカーについて、「完全に正確に車椅子ユーザーの活動量を測定することはできませんが、それでも車椅子ユーザーが健康状態を改善するために重要な役割を担うことができます。この機能がもう少し洗練されれば、活動量を測定するアプリやデバイスは車椅子ユーザーにとっても健常者と同じように役立つものとなるでしょう」と記しています。
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