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チベット難民は中国政府に検閲される危険を知りながらWeChatで家族や友人と連絡している


インスタントメッセンジャーアプリの「WeChat」は、中国のテクノロジー企業Tencentによって開発されたアプリであり、中国政府による検閲に利用されていることが知られています。WeChatは中国政府に反発する人々にとって危険なアプリといえますが、中国からインドなどの国外に脱出したチベット族の難民は、中国に残る家族や友人とのやり取りにWeChatを使用しているとのことです。

WeChat helped reunite Tibetan refugees. But at what cost? - Rest of World
https://restofworld.org/2020/china-surveillance-tibet-wechat/


チベット難民のTenzin Choedakさんは、1991年におじと共にチベットから脱出してインドに亡命しました。かつて、インドに住むChoedakさんがチベットに残る家族と連絡を取る方法は高価な固定電話しかなく、少年だったChoedakさんは自由に家族と連絡を取ることができなかったとのこと。しかし、20代前半になったChoedakさんはスマートフォンにインストールしたWeChatを使い、家族と定期的に連絡できるようになったと述べています。

Tencentが2011年に開発したWeChatは、インドに住む9万人のチベット難民の中で、最も人気があるソーシャルメディアプラットフォームとなっています。チベット自治区ではFacebookやGoogleのサービスが使えないため、WeChatは難民がチベット自治区に残る家族らと連絡を取ることができる貴重なコミュニケーションツールだそうです。


WeChatはユーザーの発言をチェックし、問題があるメッセージを送信したユーザーのアカウントを停止するといった措置を執っており、中国政府の検閲に利用されていると指摘されています。それでも、Choedakさんをはじめとするチベット難民の多くは、中国に残る家族や友人との連絡を助けてくれるWeChatを信じているとのこと。インドのチベット政策研究所で研究員を務めるTenzin Dalha氏は、チベット難民たちにとってWeChatが「愛する人と話す唯一の方法」だったため、チベット難民の間でWeChatが人気を集めたと指摘しています。

2016年に行われた中央チベット行政府(CTA)の議員選挙でも、候補者たちがWeChatを使って選挙運動を繰り広げました。チベットの亡命政府であるCTAはチベット人学校の監督や難民へのサービス提供を行っており、中国に対して厳しいスタンスを維持していますが、候補者らはWeChatグループを作ってキャンペーンを実施し、有権者との対話を行っていたとのこと。


WeChatは亡命中の難民を含む世界中のチベット人たちを結び付けるツールとなっていますが、中国政府による検閲や監視ツールとして利用される可能性も懸念されています。WeChatは中国を拠点としているため、中国政府が要請を行った場合、サイバーセキュリティ法に従ってユーザーの情報を政府に開示しなければなりません。

チベット行動研究所でデジタルセキュリティプログラムのリーダーを務めるLobsang Sither氏は、「WeChatが中国政府の要請に応じて検閲に従事し、物議を醸す情報を共有するユーザーアカウントにフラグを立てていることは広く知られています。従って、チベット人はアプリの使用に関連するリスクを理解する必要があります」と主張しています。

トロント大学でネットワーク中立性やセキュリティなどを研究する学術機関・The Citizen Labによると、「チベット独立運動」「チベットの解放」「チベットの人権団体」「チベット青年会議」といった単語がWeChat上でブロックされているとのこと。「使用するキーワードによっては、会話全体が検閲されるか、アカウントに監視対象としてのフラグが立てられる可能性があります」とSither氏は指摘。

チベット行動研究所によると、2014年~2019年だけで少なくとも29人のチベット人が、WeChatへの投稿に関連して逮捕・勾留されているそうです。2019年7月には四川省出身のチベット人男性がWeChat上でダライ・ラマの写真を共有して10日間勾留されたほか、12月には環境活動家のA-Nya Sengdra氏を含む9人のチベット人が、地方政府の腐敗や環境保護に関するWeChatグループを作成したことで最高7年の禁錮刑を言い渡されました。2020年7月には、「ダライ・ラマにささげる歌」をWeChatで共有した2人のミュージシャンが懲役7年の刑を宣告されています。


多くのチベット人はWeChat上で政治的な議論を行うことを避けており、ダライ・ラマやチベットの独立運動については触れないようにしているとのこと。一方、隠語を使ってデリケートな話題に触れるユーザーもいるようで、チベットの政治情勢を尋ねるために「天気はどう?」という文言を使ったり、ダライ・ラマを「おじさん」、中国政府の役人を「隣人」と呼んだりするそうです。

WeChatはリモートサーバーを介してメッセージが他のユーザーに到達する前にメッセージを削除するため、チベット人ユーザーは一体どの言葉が検閲に引っかかるのかを知ることができません。そのため、テキストを送信する際には自己検閲に頼らざるを得ないとSither氏は述べています。

また、2020年6月にインドと中国の国境付近で両国軍が衝突し、少なくとも20人のインド兵が死亡した事件を受け、インド政府はTikTokやWeChatを含む中国製アプリ計59個の使用禁止を発表しました。対象となったアプリはほぼ2週間にわたって機能しなくなり、VPNを使ってもWeChatで連絡を取ることはできなかったそうです。

インド政府による中国製アプリの禁止はチベット難民の間にさまざまな反応をもたらし、家族との連絡ができなくなったことを悲しむ人がいた一方で、「これは中国政府に検閲される危険があるWeChatから脱却するチャンスだ」と考える人もいました。チベット青年会議で議長を務めるGonpo Dhundup氏は、「私たちはインド政府の決定にとても満足しており、ほかの全ての先進国もこの決定に従うように要請します」とコメント。

亡命チベット人社会最大の独立派グループであるチベット青年会議は、1980年にも中国製の製品をボイコットするキャンペーンを行っており、今回の事態は「中国製のアプリ」を対象にボイコットキャンペーンを展開するチャンスだとみられています。チベット青年会議の元議長であるTenzing Jigme氏は、「私たちはセキュリティ上の問題から中国製アプリを削除するように訴えていますが、多くの人々が家族との連絡にWeChatを使っているため、この動きは難しいものとなっています。インド政府による中国製アプリの禁止は、間接的に私たちの大義を助けた形です」と述べました。


チベット難民の活動家らは、多くの難民がWeChatから脱却することを奨励する一方で、WeChatが中国に残る人々との連絡に役立っており、使用が禁止されると不便であることも認めています。代替手段としてはVPNを使用して中国のインターネット検閲システムである金盾を回避することや、個人の電話番号に紐付けられない暗号化アプリを使ってやり取りすることが提案されているとのことです。

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in モバイル,   ソフトウェア,   ネットサービス,   セキュリティ, Posted by log1h_ik

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