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Appleは「政府用の極秘iPod」の開発を手伝っていた

by raneko

Appleでソフトウェアエンジニアとして18年間勤務したデイビッド・シャイア氏が、「アメリカ政府エネルギー省が極秘で開発したiPod」を手伝った時の逸話を公開しています。当時はやりとりが全て口頭で行われたことから、Apple公式の記録には残っていないという、秘密裏に進められた任務について明かされています。

The Case of the Top Secret iPod - TidBITS
https://tidbits.com/2020/08/17/the-case-of-the-top-secret-ipod/

iPodの第4世代・第5世代が発売された2005年のある日、翌年のiPodのコードを書いていたシャイア氏のもとに、上司の上司にあたるiPodソフトウェアのディレクターが訪れました。この人物はシャイア氏に対し、「君に特別な仕事を割り当てる。このことは君の上司も知らない。アメリカのエネルギー省のエンジニア2人が特別なiPodを作るのを手伝って欲しい。報告書は私だけに渡してくれ」と告げたとのこと。


シャイア氏が紹介された2人のエンジニアは、実際にはエネルギー省に属しておらず、その下請けのベクテルで勤務していました。マシューとポールという2人のエンジニアは、iPodにカスタムハードウェアを追加し、その記録を外から検知されない形でiPodのディスクに記録するという方法を探していたそうです。

シャイア氏は2001年、iPodがまだ「P68」というコードネームで呼ばれていた時から開発に関わっており、iPodのほぼ全てのソフトウェア面に関与している人物です。iPodのソースコードをOSにコンパイルし、iPodに搭載させ、バグがないかテストするまでのプロセスは恐ろしいほどに複雑であり、新人のエンジニアはタスクを割り当てられる前に1週間かけてプロセスを学ぶ必要があるほどだとシャイア氏は語っています。シャイア氏の任務は、マシュー氏とポール氏が新しいOSを開発して、この一連のタスクを完了させることを手伝うことでした。

by Grant Hutchinson

ただし、マシュー氏とポール氏はAppleのソースコードサーバーにアクセスすることを許可されていなかったため、シャイア氏はDVDにソースコードを焼いて渡しました。もちろんこのDVDは社外への持ち出し禁止。最終的には2人が作った「iPod OSのコピー」については社外で扱えるようになったそうですが、ソースコード自体は最後まで持ち出せなかったとのこと。またAppleは2人にソフトウェアやハードウェアのツールを貸し出さず、必要なスペックのWindows、ARMコンパイラ、JTAGデバッガーのみを渡したため、2人は自分で何十個というiPodを購入してテストを行いました。

当時発売されたばかりだった第5世代iPodは、AppleがOSにデジタル署名を行わなかった最後のiPodとして知られています。第5世代iPodはある程度のハッキングが可能だったため、愛好家の中にはiPodでLinuxを実行する人もいたそうです。iPodのエンジニアリングチームはこのような愛好家の行動に感銘を受けましたが、Appleはこれをよしとしなかったため、それ以降のiPodはLinuxハッカーなどをブロックするデジタル署名が追加されることに。このため、マシュー氏とポール氏の目的には第5世代iPodが適していたとみられています。


一方で、2人のエンジニアの目的は、シャイア氏には知らされませんでした。シャイア氏が「何を作っているのか」と尋ねると、2人は毎回ランチの内容について話をごまかしていたとのこと。シャイア氏は、2人が「iPodに見えるガイガーカウンター」を開発していたと考えています。エネルギー省の職員が、周囲にはiPodを操作しているかのように見せながら、放射線を測定するためのツールが開発されていたのだというのがシャイア氏の考えです。

by Jorge Franganillo

ただし、このプロジェクトは紙に記録されることなく、やりとりは全て直接・口頭で行われたため、Appleの記録には残っていません。この極秘プロジェクトに関与したのはシャイア氏、iPodのソフトウェアディレクター、iPod部門の副社長、ハードウェア部門の上級副社長のみであり、全員が既にAppleを去っています。

なお、シャイア氏が記事を公開した後、元iPod部門担当上級副社長であり、GoogleのNestやGoogle Glassの責任者を務めたトニー・ファデル氏はシャイア氏の物語が事実であることをTwitterで認めています。

Absolutely spot on David Shayer…
This project was real w/o a doubt.
There was whole surreal drama & interesting story about how this project was kicked off & then kept secret.

The Case of the Top Secret iPodhttps://t.co/jgZqcvKIsV

— Tony Fadell (@tfadell)

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in ソフトウェア,   ハードウェア, Posted by darkhorse_log

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