Appleは機密情報をリークされないように元FBIや元シークレットサービスから構成される極秘チームを持っている
Microsoftはリーク情報のソースを特定するための特許を取得しているように、製品開発を行う会社にとって、未発表の情報が漏れるという事態は何としても防ぎたいもの。Appleも新製品の情報漏えいと長年戦っており、一体何が行われているのか?ということを一部メディアを招いたブリーフィングにて発表しています。
Leaked recording: Inside Apple’s global war on leakers
https://theoutline.com/post/1766/leaked-recording-inside-apple-s-global-war-on-leakers
ライターのWilliam Turton氏が出席したのは、Appleのセキュリティ担当者らによる「Stopping Leakers - Keeping Confidential at Apple(情報漏えい者を防ぐために - Appleに機密情報をとどめる)」という内容のブリーフィング。この中で、担当者らによって明かにされたのは、Appleがメディアやライバルの手によって情報漏えいが行われるのを防ぐために、秘密裏にアメリカ国家安全保障局(NSA)・FBI・シークレットサービス・アメリカ軍などの元職員を雇ってきたということでした。
Appleの秘密主義は、スティーブ・ジョブズが2004年にテクノロジー系ブロガーを呼び寄せて彼らの情報源を明らかにしようと試みたことで知られていますが、その後CEOの座についたティム・クック氏も「あなたの下でAppleの秘密主義は軽くなりますか?」という問いに対して「製品に関する秘密はよりしっかりと守られる」という旨を回答していることから、2017年現在でも貫かれていることがわかります。
by Caden Crawford
ブリーフィングで行われたプレゼンテーションによると、秘密事項を社内にとどめるため、Appleはグローバルセキュリティと協力して「新製品セキュリティ」というチームを設けています。チームの1人であるDavid Rice氏は元NSA職員で、アメリカ軍で暗号学の専門家として働いた経験を持ち、Appleではこれまでグローバル・セキュリティチームで6年間働いてきました。また、Lee Freedman氏はアメリカ連邦地検でコンピューター犯罪のチーフを務めた人物で、2011年からAppleが行う世界規模の調査に関わっています。この2人を中心とする新製品セキュリティは、主にサプライチェーンからの情報漏えいに力を入れてきました。
2012年に起こったiPhone 5のリークを始めとして、これまで、Apple製品の情報漏えいが起こるのは、中国の工場が中心でした。しかし、中国の工場での取り締まりを強化したことで、今ではむしろカリフォルニアにある本社から情報が漏えいする割合が多くなっているそうです。
中国の工場からの情報漏えいを防ぐためのAppleの取り組みは「ノンストップの塹壕線」のようだったとRice氏は語っています。世界トップレベルのテーマパークでは入場者に対して毎年2億2300万回もの身体検査を行っていますが、Appleの工場に出入りする人々に対する検査回数は2億2100万回と、それに匹敵するだけの数だからです。
Appleの工場で働く人の給与は、残業代を抜きにすると月額350ドル(約3万9000円)ほど。職員のうち99.9%は善人であり、真面目に働いて家族をサポートしたり、貯金したお金で起業する人なのですが、「3カ月分の給料が一度に得られる」というブラックマーケットからの誘惑に負けて情報を漏えいしようとする人も中には存在します。特に被害に遭いやすいのが端末の筐体やケースに関する部門。筐体は作業している人が「どのような端末がリリースされるのか」ということを理解しやすいためです。ケースなど端末のパーツを盗み出す方法はバスルームに隠す、足に縛り付けて持ち出す、フェンスから投げるなどさまざまで、ブラジャーに隠してパーツを盗み出そうという試みは、これまでに8000回近くあったそうです。
そして、盗まれたパーツは、最終的に中国・深セン市にある世界一の電脳街「華強北路」に行き着くとのこと。
スマホ・PC・ドローンなど秋葉原30個分の規模であらゆるガジェットが手に入る深センの魔窟・電脳エリア「華強北路」に行ってきました - GIGAZINE
iPhone 5cを発表した2013年には、Appleは華強北路から発表前の端末パーツ1万9000個、出荷前の端末1万1000個を買い戻す必要に迫られたとRiceは語っています。「世界中のブロガーが手に入れないよう、私たちはなるべく早く買い戻す必要があるのです」とRice氏。
2012年にクックCEOが製品に関する秘密保持を強化すると宣言してから、セキュリティ・チームは盗難対策の成果をどんどん上げてきました。2014年には盗まれるパーツが387個になり、2015年には57個、そして2016年には6500万個の筐体が作られたにも関わらず、盗まれたケースはわずか4個でした。これはつまり、盗難の確率が1600万の1にまで減少したということ。
上記のように中国の工場での盗難が劇的に減少したため、次にAppleのセキュリティ・チームが対策に力を入れたのが、アメリカにある本社です。
Appleには従業員に秘密を守らせるため、極秘プログラムのマネージメントを行うチームが存在しますが、それでも秘密が外部に漏れてしまった時には、「何が起こったか」「誰に責任があるのか」の調査が行われます。この調査は徹底したもので、情報漏えい者を捕まえるために3年間も追跡が行われることもあるとのこと。「いずれ情報は漏れたものだし」「ブログに情報が書かれただけだし、辛抱しよう」といった敗者の精神は存在しない、とFreedman氏は語っています。
2016年にはAppleのオンラインストアで数年間働いていた職員と、iTunesに6年間携わっていた職員の2人を情報漏えいで捕まえたとのこと。2人はTwitter上でジャーナリストに声をかけたり、以前から知り合いだったレポーターに対して情報を渡していました。このような情報漏えい者でも、みんな働き出したばかりの頃は「Appleが好き。何てクールな場所で働いているのだろう。もっともっと製品を良くしたい」と考えており、勤務態度からも情報漏えい者か否かを見分けるのは非常に難しいとのこと。
しかも、過去には悪いレビューが書かれた後に「でもそれは常に起こることじゃないし!」と反論の中で秘密を漏らしてしまう人や、「私が何をやりとげたと思う?」と成し遂げた仕事に興奮するあまり秘密を漏らしてしまう人もおり、情報漏えいが必ずしも悪意によって起こるわけではないのが難しいところ。そもそも、Rice氏らのセキュリティ・チームが作られたきっかけも、とある開発者がiPhone 4のプロトタイプを街のバーに忘れたことにあるとのこと。忘れ去れたiPhone 4はGizmodoの手に渡り、ウェブサイト上にリーク情報が流れることに。スティーブ・ジョブズはGizmodoに個人的に編集者と連絡を取りiPhoneを返して欲しいと告げたそうです。
それでも、「ビッグ・ブラザーの文化はAppleには存在しない」とRice氏は語っており、職員のメールを隠れて見たり、バスで後ろに座って様子をうかがったりというような行為については否定しています。一方で、Appleは職員に対して私生活と仕事の境界線を作るように言っており、職員の1人が「家族や10代の子どもたちに、自分が仕事で何をしているかを話さないように骨を折っています」と語っていることから、Apple職員はまるで「CIAで働いている人のようだ」とのこと。
by val.pearl
もちろん社内の全ての内容が秘密事項とされているのではなく、「上司がクソ」「給料はどのくらい」「会社で違法なことを行っている」というような内容を話すことは職員の自由とされています。禁じられているのは、主に未発表のプロダクト・サービスなどに関する事項です。それでも秘密をうっかり外部に漏らしてしまうことを恐れてApple新入社員の多くは自身のSNSアカウントを削除するとのこと、実績のあるセキュリティ研究者であるJonathan Zdziarski氏ですら、Appleで働き出すと同時にTwitterを鍵付きに設定しました。
「Apple Watchのバンドがリリースされる」「iPadの画面が大きくなる」といった情報は取るに足らないものに見えますが、クックCEOはこれらのリーク情報がダイレクトにAppleに損害を与えていると考えており、iPhoneの売上が「未発表のiPhoneに関する早期にして頻繁なレポート」の影響を受けていると発言しています。それゆえにAppleは新商品の情報漏えいに対して一層の力を入れており、Appleの続く形でSnapchatやFacebookも近年、リーク情報に対して敏感に反応し出しているとのことです。
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