生き物

ウシのおしりに「目」を描くとライオンに食べられなくなるという実験結果


家畜を飼育・放牧して乳製品や肉などを出荷する畜産は世界各国で行われていますが、肉食動物による家畜の捕食が問題視されていると同時に、家畜を守ろうとする農家により肉食動物が殺されることも問題となっています。オーストラリアのニューサウスウェールズ大学の研究チームは、「ウシのおしりに『目』のマークを描く」という方法が、ウシをライオンなどの肉食動物から守る上で有効との研究結果を発表しました。

Artificial eyespots on cattle reduce predation by large carnivores | Communications Biology
https://www.nature.com/articles/s42003-020-01156-0

Lions are less likely to attack cattle with eyes painted on their backsides
https://theconversation.com/lions-are-less-likely-to-attack-cattle-with-eyes-painted-on-their-backsides-142488


肉食動物による家畜の捕食は畜産業者の生活を脅かすだけでなく、畜産業者による肉食動物の殺害を招いてライオンなどの個体数減少を招く危険があります。畜産業者と野生動物間の紛争は、アフリカなどの動物保護区周辺で最も激しくなり、畜産業者は野生動物と共存するために多大なコストを負担しているとのこと。

家畜を守るための既存のアプローチとしては、放牧する範囲を柵で囲って肉食動物が近づけないようにしたり、致死性の低い方法で肉食動物を遠ざけたりするものが主流です。しかし、この方法は常に実行可能ではない上にコストがかかるため、発展途上国の畜産業者が導入することは困難であり、代替的な手法が望まれています。

ボツワナの北西部に位置する世界自然遺産のオカバンゴ・デルタでは、地元の人々が湿地で畜産を営むすぐそばでライオンなどの大型の肉食動物やゾウが暮らしており、肉食動物が家畜を殺すことは珍しくありません。そこで研究チームは、肉食動物保全団体のBotswana Predator Conservationおよび畜産業を営む地元の人々と協力し、肉食動物から家畜を守る方法についての研究を行いました。

by Mario Micklisch

研究チームによると、オカバンゴ・デルタで行われる家畜の捕食は、ほとんどがライオンによるものだそうです。畜産業者は夜の間、6頭~100頭程度の家畜の群れを柵の中で眠らせていますが、日中は柵の外で放牧を行っています。肉食動物による捕食の大部分は、日中の放牧時に行われるとのこと。

家畜を食べる主な肉食動物であるライオンやヒョウ、トラは「待ち伏せ」を行う捕食者であり、狩りをスタートする前に獲物に気づかれた場合、狩りをあきらめることもあります。研究チームはこの習性を利用して、「家畜のおしりに『目』のマークを描く」ことが待ち伏せをする捕食者を警戒させ、家畜が捕食されるリスクを軽減するのではないかと考えました。


研究チームは、ライオンの群れから攻撃を受けた経験がある14のウシの群れを対象にして、おしりに描いた「目のマーク」が捕食されるリスクを減らすかどうかを調べました。研究チームは対象となったウシのうち、全体の3分の1にはおしりに「目のマーク」を、さらに3分の1に「十字のマーク」を描き、残りの3分の1には何もマークを描かずにいつも通り放牧させたとのこと。

以下の画像が、実際にウシのおしりに描かれたマークです。(a)が「目のマーク」、(b)が「十字のマーク」、(c)が何もマークを描かれていないウシです。


4年間にわたり計2061頭のウシを対象に実験を行った結果、「目のマーク」がおしりに描かれた全683頭のウシは期間中に捕食されませんでした。一方、何もマークが描かれなかったウシは全835頭中15頭が、「十字のマーク」が描かれたウシは全543頭中4頭が捕食されました。

全てのウシは同じ場所で放牧されており、野生動物にさらされるリスクに違いはなかったため、「目のマーク」が描かれたウシは明らかに他のウシより捕食されにくいことが明らかになったと、研究チームは述べています。この結果は「捕食者に『獲物がこちらを見ている』と認識させることで、狩猟を放棄させることができる」という仮説を支持するものでしたが、一方で単純な「十字のマーク」がおしりに描かれたウシでも被捕食率が下がった点は、研究チームにとっても予想外だったとのこと。

なお、今回の実験では、常に群れの中に「目のマークが描かれたウシ」「十字のマークが描かれたウシ」「何もマークが描かれていないウシ」が混在していたため、全てのウシに「目のマーク」を描いた場合にどうなるのかは不明です。しかし、現時点の結果だけでも、群れの中で価値が高い家畜だけに「目のマーク」を描くことで、他の価値が低い家畜より食べられる危険を減らすことが可能だと示唆されています。

ただし、同じアプローチを長期的に使用し続けることで、「捕食者が『目のマーク』に慣れてしまう」可能性もあります。これは全ての非致死性のアプローチに伴う課題であり、長期的に「目のマーク」を用いた手法が有効かどうかはわからないとのこと。

研究チームは単一のアプローチが全ての問題を解決する可能性は低いと指摘しつつ、「家畜のおしりに『目のマーク』を描く」という単純で低コストなアプローチが、畜産業者の負担を一部軽減することを期待すると述べました。

by Bobby-Jo

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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