パンデミックが幸福度を下げたがロックダウンにより回復したとの研究結果
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックでは、多くの人が旅行やイベントへの参加を控えたり、出勤をやめてリモートワークに切り替えたりといった行動の変化を経験しました。こうしたパンデミックの影響により人々の幸福度が急落した一方で、都市封鎖(ロックダウン)がその悪影響を最小限にとどめたことが、ケンブリッジ大学の研究により判明しました。
Wellbeing levels fell during the pandemic but improved under lockdown, data analysis shows
https://theconversation.com/wellbeing-levels-fell-during-the-pandemic-but-improved-under-lockdown-data-analysis-shows-143367
過去の研究では、COVID-19対策として実施されたロックダウンなどの政策により、全世界で合計5億人以上がCOVID-19の脅威から守られたことが示されています。
5億3000万人もの人々がロックダウンなどにより新型コロナウイルスから守られたとの研究結果 - GIGAZINE
ロックダウンが多くの人の肉体的健康を守ったことが判明している一方で、ロックダウンが精神的健康に与える影響はこれまではっきりとは分かっていませんでした。
そこで、イギリスにあるケンブリッジ大学のベネット公共政策研究所に勤めるマーク・ファビアン氏らは、市場調査会社YouGovが実施した心的状態に関する調査の結果とGoogleトレンドを活用して、パンデミックとそれに伴うロックダウンが人々のメンタルヘルスに与えた影響を調べました。
以下は、YouGovがイギリス人2000人を対象に合計12種類の心的状態についてアンケートをとった調査結果のうち、最も特徴的な変化を示した「退屈」の感情についてのグラフです。イギリスで本格的なロックダウンが開始された2020年4月以降を見ると、ロックダウンを境に退屈が慢性的に高い状態が続いていることが分かります。
一方、「恐怖」はロックダウン開始時に急上昇したものの、すぐにCOVID-19が猛威を振るう前の水準に戻りました。
「恐怖」の感情とはある意味で好対照な経過を見せたのが「幸福」です。「幸福」はロックダウンの開始と共に大きく落ち込みましたが、その後約1カ月間かけて元の水準に戻っています。
ファビアン氏らがYouGovのデータを総合的に分析して作成した「生活満足度」のグラフも、「幸福」に非常に近い結果となりました。
幸福や満足度がロックダウンの開始後に回復を見せたとの調査結果から、ファビアン氏らは「パンデミックの到来とともに人生の満足度が低下しましたが、ロックダウンにより回復したことが示唆されています」と結論付けました。
上記のデータはイギリスのみを対象としたものだったため、ファビアン氏らは、イギリス以外の国も含めた調査も行いました。調査では、Googleトレンドのデータから「心理的ストレス」「退屈」「欲求不満」「悲しみ」「恐怖」「無気力」といったネガティブな単語の使用状況が抽出され、地域ごとにまとめられました。
以下は、調査対象となった8カ国のうちイギリス(左)とアイルランド(右)における、2020年2月~6月のネガティブな単語の検索状況のグラフです。期間ごとに色分けされた棒グラフのうち白抜きの部分が、各地域で外出が原則禁止となった「フル・ロックダウン」が実施された期間です。いずれのグラフでも、ロックダウン開始時に比べて、ロックダウン末期の方がネガティブな影響が低くなっています。
この傾向は、イギリス(左)とカナダ(右)や……
オーストラリア(左)とニュージーランド(右)
インド(左)と南アフリカ共和国(右)といった国々でも同様でした。
ファビアン氏らはこの結果について「Googleのデータを統計的に分析した結果、ロックダウン政策が導入された1カ月後に、ネガティブな影響が平均して17%減少したことが分かりました。ロックダウンがCOVID-19の新規感染者数や死亡者数がピークに達した時期に始まっていたことを考えると、このような効果が見られるのも不思議なことではありません」とコメントしました。
また、ロックダウンに伴う所得支援といった政策も、幸福度に寄与していたことが分かっています。以下の3つの折れ線グラフは、2020年2月~6月における社会経済的地位(SES)ごとの「生活満足度」の推移を表したもので、グラフは上からNRSソーシャルグレードの区分が熟練労働者階級・労働者階級および非労働者・不完全就業の人々を示しています。また、各グラフの白抜きの部分は、イギリスで最初にCOVID-19感染者が特定された3月5日以降のデータの部分です。いずれのグループでも「生活満足度」が上昇していますが、一番下の不完全就業のグループが最も上昇幅が大きくなっています。
SESが低いグループで満足度が大きな改善を見せたことについて、ファビアン氏らは「これは、SESが低い個人向けに所得支援を実施した効果が反映されていると思われます」と指摘しました。
こうした結果を踏まえて、ファビアン氏らは「多くの国でロックダウンが解除されつつありますが、COVID-19の第2波が到来した場合には、より大規模なロックダウンが必要になるかもしれません。ロックダウンの要否の判断には多くの要素が絡んできますが、私たちの研究により、ロックダウンには悪影響もある一方で、パンデミックそのものがもたらすメンタルヘルスへの悪影響を和らげる可能性もあることが分かりました」と述べました。
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