スマホのカメラを使って自宅にいながら網膜の検診が可能な技術が開発中
生活習慣病の1つである2型糖尿病が進行すると目の網膜に負担がかかり、放置すると失明に至る場合があります。そこで、スマートフォンの高性能カメラを利用して、自宅にいながら誰でも網膜の検診ができるようなシステムを、ライン・フリードリヒ・ヴィルヘルム大学ボンとインドのサンカラ眼科病院の共同研究チームが開発しています。
Diabetic retinopathy screening using smartphone-based fundus imaging in India
(PDFファイル)https://www.aaojournal.org/article/S0161-6420(20)30463-2/pdf
Inexpensive retinal diagnostics via smartphone
https://medicalxpress.com/news/2020-05-inexpensive-retinal-diagnostics-smartphone.html
糖尿病が引き起こす合併症の1つに網膜症があります。眼球で光を感じ取る網膜には無数の毛細血管が張り巡らされていて、視細胞に酸素と栄養素を供給していますが、糖尿病で血管が損傷すると、新しく細い毛細血管が大量に作られ、眼底出血や網膜剝離(はくり)の原因となり、最悪の場合は失明に至ってしまいます。
「しかし、レーザー治療など早めに網膜症治療を施せば、失明を防げる場合がほとんどです」と、ライン・フリードリヒ・ヴィルヘルム大学ボン付属病院の眼科医であるマクシミリアン・ヴィンターガースト氏は述べています。治療にはもちろん2型糖尿病そのものの進行を抑えるために運動不足と食事療法が必要ですが、それだけではなく網膜症の早期発見につながる定期検診も必要だとのこと。
より低コストで手軽な網膜検診の方法を模索する中で、研究チームは近年大きく進歩しているスマートフォンのカメラに注目。4つの異なる方法でスマートフォンのカメラを眼球内部を診察可能な検眼鏡に改造し、サンカラ眼科病院で実際に検眼を行いました。その結果、スマートフォンのカメラに追加のレンズアダプターを装着した方法(以下の画像のD)で、網膜異常を80%の割合で検出できたとのこと。また、特に損傷が進んでいる網膜は100%診断できたそうです。
この技術を応用すれば、スマートフォンによる診断が可能になることで、たとえば「自宅でスマートフォンにレンズモジュールをとりつけて、自分や家族の目を撮影し、その画像をインターネット経由で眼科医に送信して診断を待つ」という検診方法も期待できると研究チームは述べています。
さらに、次の段階として、研究チームはアプリの開発を進めているとのこと。この開発中のアプリは、スマートフォンで撮影された患者の網膜の画像と眼科医の診断内容をまとめて暗号化した電子カルテファイルを作成できるとのこと。また、人工知能による画像解析によって撮影した網膜の画像から糖尿病性網膜症を示す病理学的変化を自動的に検出する機能も想定されています。
論文共著者でサンカラ眼科病院に勤めるマヘシュ・シャムガム医師は「新型コロナウイルス感染症は、病院を訪れる患者を減らす方法を探求する必要性を生みました。そして、今回の研究は、糖尿病患者の網膜検診の効率をさらに高めるものとして有望です」と述べました。
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