サイエンス

新型コロナ治療薬が入院患者の死亡・心疾患リスクを増加させていたという調査結果


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流れを大きく変える薬として注目されていたヒドロキシクロロキンクロロキンはマラリアなどの治療薬としては効果が認められているものの、COVID-19に関しては小規模な研究でしか有効性が示されていませんでした。新たに9万6000人を対象とした大規模な研究が実施されたところ、入院患者の死亡率や心疾患リスクの上昇が確認され、その投与が疑問視されています。

Hydroxychloroquine or chloroquine with or without a macrolide for treatment of COVID-19: a multinational registry analysis - The Lancet
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31180-6/fulltext

Hydroxychloroquine linked to increase in COVID-19 deaths, heart risks | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/05/hydroxychloroquine-linked-to-increase-in-covid-19-deaths-heart-risks/

ヒドロキシクロロキンは抗マラリア剤として使われるほか、関節リウマチの炎症軽減にも用いられている薬で、2020年3月19日にトランプ大統領が「ヒドロキシクロロキンやその類似薬のクロロキンと、抗ウイルス薬のレムデシビルはゲームチェンジャーである可能性があると思います」と発言したことで注目が集まりました。

COVID-19はまだ有効な治療薬が確立していないため、トランプ大統領の発言を受け、COVID-19患者へのヒドロキシクロロキン使用が承認されるのを見越した医師が、不正に処方箋を発行して自分や家族のためのヒドロキシクロロキンを確保する事態も報告されたとのこと。

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その後、3月31日にはアメリカ食品医薬品局(FDA)がCOVID-19の入院患者を対象に、ヒドロキシクロロキンとリン酸クロロキンについて緊急使用許可を出しました。一方で、ヒドロキシクロロキンはかねてから失神、心停止、突然死といった副作用が確認されているとして、注意喚起も行われていました。

しかし、医学誌「ランセット」に掲載された新たな査読済み論文で、ヒドロキシクロロキンとクロロキンの2種の薬が入院患者の死亡リスクと心臓合併症のリスクを大幅に増加させることが発表されました。


研究は6大陸・9万6000人を超えるCOVID-19入院患者を対象に、ハーバード大学の医学教授であるマンディープ・メーラ氏が率いる研究チームが実施した、過去最大規模のもの。被験者の平均年齢は54歳で、全体の54%が男性とのことです。

患者のうち、1万5000人はSARS-CoV-2陽性が診断された48時間以内にヒドロキシクロロキンやクロロキンの投与を受けていました。1万5000人のうち1868人はクロロキンを投与され、3783人はクロロキンと共にマクロライド系抗生物質の投与を受けました。3016人がヒドロキシクロロキンを投与され、6221人がヒドロキシクロロキンとマクロライド系抗生物質を一緒に投与されました。これ以外の8万1000人は入院中、2つの薬の投与がなかったため、研究ではコントロールグループとして扱われました。


研究者が「病院内での死亡リスク」と「深刻な心臓不整脈リスク」に焦点を当てて分析したところ、以下の4点が結論として導き出されました。

◆ヒドロキシクロロキンだけを投与されたグループの患者は病院で死亡するリスクが34%増加し、深刻な心臓不整脈になるリスクが137%増加した。
◆ヒドロキシクロロキンとマクロライド系抗生物質を投与されたグループの患者は病院で死亡するリスクが45%増加し、深刻な心臓不整脈になるリスクが411%増加した。
◆クロロキンだけを投与されたグループの患者は病院で死亡するリスクが37%増加し、深刻な心臓不整脈になるリスクが256%増加した。
◆クロロキンとマクロライド系抗生物質を投与されたグループの患者は病院で死亡するリスクが37%増加し、深刻な心臓不整脈になるリスクが301%増加した。

ただし、この研究は観察研究であり、科学的に「強いエビデンス」だとされるランダム化比較試験ではないという点に制限があります。薬のリスクや利点を明らかにするためにはランダム化比較試験が必要だと考えられています。

また、研究者は分析において考えられる因子の調整を行いましたが、他の測定されていない因子が病気の経過に影響を与えた可能性もあるとのこと。加えて、この研究は入院患者のみを対象としたものであり、入院の必要がない軽症状患者のリスクについて触れていないことについても、注意が必要です。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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