ガリレオ・ガリレイは本当に「それでも地球は回っている」と言ったのか?
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イタリアの天文学者ガリレオ・ガリレイは、天体の運行や物理学について多くの著述を残していますが、その功績と同じくらい有名なのが「それでも地球は回っている(E pur si muove)」というフレーズです。ガリレオが本当にこの発言をしたかどうかについて、天文学者であり「Galileo and the Science Deniers(ガリレオと科学否定者たち)」という本の著者でもあるマリオ・リビオ氏が論じました。
Did Galileo Truly Say, 'And Yet It Moves'? A Modern Detective Story - Scientific American Blog Network
https://blogs.scientificamerican.com/observations/did-galileo-truly-say-and-yet-it-moves-a-modern-detective-story/
We now have more evidence that Galileo likely never said “And yet it moves” | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/05/we-now-have-more-evidence-that-galileo-likely-never-said-and-yet-it-moves/
ガリレオが「E pur si muove(イタリア語で『それでも動く』の意)」と発言したのは、1633年に開かれた宗教裁判の法廷でのことだとされています。ガリレオが唱えていた地動説は今でこそ常識ですが、天動説が主流だった当時のヨーロッパでは異端視されており、ガリレオは教会の教えに背いた罪でカトリック教会の異端審問を受けていました。
このガリレオの宗教裁判について言及した最も古い記録は、ガリレオの弟子である数学者ヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニが1655~1656年の間に著した伝記です。しかし、この伝記には「E pur si muove」という言葉は登場しません。
リビオ氏によると、「E pur si muove」という言葉を最初に取り上げたのは、ガリレオの死後100年以上が経過した1757年にジュゼッペ・バレッティという文芸評論家が発表した「Italian Library」という書籍とのこと。この本が世に出て以降、多くの本がガリレオの有名なフレーズを取り上げてきましたが、リビオ氏が特に注目しているのは本ではなく絵画です。
この絵画は、裁判で有罪判決を受けて投獄されたガリレオの姿を描いたものだとされていますが、劣化が激しいため細かい部分がほとんど判別できません。しかし、かつてはガリレオがくぎで壁に刻んだ天体図や、その下に掘られた「E pur si muove」という文字がはっきり描写されていたとの記録が残っています。
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この絵画は当初、17世紀に活躍したスペインの画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョが、ガリレオの死後すぐに描いたものだとされていたことから、ガリレオが実際に「E pur si muove」という言葉を残したことの根拠の1つに数えられていました。
しかし、リビオ氏が1年かけてこの絵の所在を探ったところ、絵は2007年に個人のコレクターに売却されていたことが判明。また、絵の競売を行ったオークションハウスは、絵の年代を19世紀と鑑定していたとのこと。これが事実なら、「E pur si muove」という言葉を現代に伝えたものだとされる17世紀の絵画は、実際には「E pur si muove」というフレーズが定着した後に描かれたものだという可能性が高いことになります。
絵画がどの時代の作品かについては、美術史家による最終的な審査の結果を待たなければなりませんが、リビオ氏は18世紀半ばごろに描かれたものだと予想しており、「E pur si muove」という有名なフレーズもこの時期に生まれた伝説だと考えているとのこと。
また、ベルギーにあるStedelijk Museumにも上記の絵画と酷似した「Galileo in Prison(獄中のガリレオ)」という絵画が収蔵されていますが、この絵は19世紀の画家Eugene van Maldeghemが描いたものだという出自がはっきりしています。
My article on the origins of Galileo's motto "And Yet It Moves" now appears @sciam with the original Van Maldeghem painting: https://t.co/wQW5iOCvX3 pic.twitter.com/ST6dDQGADZ
— Mario Livio (@Mario_Livio) May 13, 2020
「獄中のガリレオ」には、「E pur si muove」という文字が明瞭に描写されています。
by Gerald Delvaux
リビオ氏は「獄中のガリレオを描いた絵は、事実上2枚あります。1枚は1643年か1645年に描かれたと主張されており、もう1枚は1904年か1905年に美術館に収蔵されたということが分かっています。しかし、この2枚の絵の類似性を鑑みるに、Van Maldeghemが元の絵を模写したか、逆に19世紀末から20世紀初頭の誰かがVan Maldeghemの絵を模写したと考えられます」と指摘し、「E pur si muove」と書き込まれた最初の絵画は17世紀のものではないとの見方を示しました。
リビオ氏はアメリカの科学雑誌Scientific Americanに寄稿した記事の中で、「仮にガリレオが『それでも地球は回っている』と口にしなかったとしても、証明可能な事実でさえ科学否定者の攻撃にあうようなこの時代においては、含蓄のある言葉に違いありません。ガリレオの伝説的な知的反抗は、これまで以上に重要になってきています」と述べています。
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