ついに原子炉も3Dプリンターで開発される時代、これまでになく先進的な原子炉開発プロジェクト「Transformational Challenge Reactor」とは?
3Dプリンターの進化によって、カラフルなフィギュアや人工呼吸器、家など、さまざまなものを3Dプリンターで出力することができるようになりました。そして、ついに原子炉を3Dプリンターで出力する研究開発プロジェクト「Transformational Challenge Reactor(TCR)」が、アメリカのオークリッジ国立研究所で進められています。
Home - Transformational Challenge Reactor Transformational Challenge Reactor
https://tcr.ornl.gov/
3-D-printed nuclear reactor promises faster, more economical path to nuclear energy
https://techxplore.com/news/2020-05-d-printed-nuclear-reactor-faster-economical.html
オークリッジ国立研究所はマンハッタン計画の一部として建造された研究施設を起源としており、アメリカ・エネルギー省管轄下で原子炉の研究開発を初めとするさまざまなプロジェクトを推し進めています。
オークリッジ国立研究所によれば、電力供給のほぼ20%が原子力発電によって提供されているアメリカでは、小型大出力で比較的安価に建設可能な軽水炉が原子炉として主に採用されているそうですが、ライセンスの問題で2055年までに廃止される可能性が高く、軽水炉に取って代わる原子炉の開発が求められています。しかし、原子炉の積極的な研究開発が行われたのは1950年代~1960年代がピークで、現代に1から新しく原子炉の設計と導入を行うにはばく大なコストがかかるとのこと。
オークリッジ国立研究所のTCRは、これまで製造に高コストが懸念された複雑な設計を最新の技術によってコストを抑えながら行うというプロジェクトです。
TCRのテクニカルディレクターを務めるカート・ティラーニ氏は「我々は、このプログラムを現実のものにするためにここ数ヶ月間積極的に開発を行ってきましたが、その努力により、3Dプリンターで出力した炉心のデモンストレーションを行える段階にまで到達しました。現在の原子力の状況は悲惨なものですが、TCRは原子力コミュニティのイノベーションが急速に進むきっかけになる基礎的な取り組みです」と語っています。
TCRで使われる炉心のモデルを3Dプリンターを使って出力するところは、以下のムービーで見ることができます。
ORNL explores the possibilities of a 3D-printed nuclear reactor - YouTube
以下が3D金属プリンターで原子炉の炉心を出力している様子。TCRで開発される原子炉では、燃料に窒化ウランのTRISO型被覆燃料粒子を、減速材にイットリウム水素化物を使うとのこと。これにより、従来よりも少ない燃料量で臨界状態を維持することが可能になると、オークリッジ国立研究所は述べています。
出力された炉心のモデルがこんな感じ。TCRでは開発だけではなく、AIを用いた原子炉の動作テストやパフォーマンス分析も行われており、すぐに商用化できるように可能な限り広範なテストが実施されているそうです。
「TCRのコンセプトが現実味を帯びたのは、付加製造(3Dプリント)技術に著しい進歩があったからです。3D印刷を使用することで、過去数十年の間に原子力コミュニティが活用できなかった技術と材料を使用することができます」とティラーニ氏は述べています。
オークリッジ国立研究所のトーマス・ザカリア所長は「原子力産業は、原子力エネルギー技術の設計、構築、展開の方法を考える上で、いまだに制約を受けています」と述べ、「TCRは、先進的な原子力エネルギーシステムの配備を加速する新しいモデルを提供します。近い将来にコストと建設時間に対処しなければ、アメリカは結局炭素を排出しない、唯一にして最大の電力供給源を失ってしまうでしょう」とコメントしています。
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