金属の殺菌効果を飛躍的に高める表面加工技術が開発される
アメリカ・パデュー大学の研究チームが、古代から殺菌効果があると知られている銅の表面を加工して、「殺菌効果を飛躍的に高める」ことに成功しました。
Hierarchical Micro/Mesoporous Copper Structure with Enhanced Antimicrobial Property via Laser Surface Texturing - Selvamani - 2020 - Advanced Materials Interfaces - Wiley Online Library
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1002/admi.201901890
Now metal surfaces can be instant bacteria killers, thanks to new laser treatment technique - Purdue University News
https://www.purdue.edu/newsroom/releases/2020/Q2/now-metal-surfaces-can-be-instant-bacteria-killers,-thanks-to-new-laser-treatment-technique.html
人類は病原性大腸菌のような有害な細菌を体から除去するため、抗生物質を開発しました。抗生物質は20世紀で最も偉大な発見のひとつと評され「奇跡の薬」とも呼ばれてきましが、近年は抗生物質の効かない「スーパーバグ」に進化する細菌も登場。人類と細菌の生存を賭けた争いは続いています。
こういった経緯から、近年は抗生物質のような薬剤以外の殺菌手法に注目が集まっています。パデュー大学の研究チームが発表した研究は、銅の持つ殺菌効果を高めることができる表面加工に関する技術です。研究チームは、開発した加工技術を解説するムービーを公開しています。
Treating Metal Surfaces to Kill Bacteria - YouTube
旧来から銅は殺菌効果があると知られていますが、ごく普通の銅が細菌を完全に殺すには数時間かかります。
パデュー大学の研究チームは、レーザーを表面に照射することで銅の持つ殺菌効果を高めるという技術を開発しました。以下が実際にレーザーを銅表面に照射している様子。
50ナノメートルの分解能の走査電子顕微鏡で無加工の銅表面(左側)と、今回開発された新技術で加工した銅表面(右側)を撮影した比較画像が以下。この技術は、レーザーを照射することで表面にナノメートルレベルの凸凹を形成し、表面積を増やします。表面積が増えることで細菌が銅と接触する確率が高まるため、殺菌効果が高まるとのこと。
研究チームはこの表面加工によって、実際に銅や銅の合金の殺菌効果が高まっていることも確認しているそうです。今回の技術で表面加工を施した銅は、緑膿菌や大腸菌だけでなく、スーパーバグの一種であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌を完全に死滅させるまでにかかる時間が大幅に短縮されたとのこと。
また、この技術によって加工された金属表面は水を吸着させる「超親水性」という性質も持っているそうです。整形外科手術で使われるインプラントの表面は親水性が高いほど骨細胞がより強く接着するため、骨との接着度合いが高まります。それゆえ、この技術はインプラントの表面加工にも有望視されています。
加えて、この技術は、「環境に優しい」という利点もあると研究チームは主張しています。金属表面をコーティングすることで抗菌特性を高めるという技術はすでに存在していますが、このコーティングが剥がれて浸出することで環境に害を与えるという問題が指摘されてきました。今回の新技術はあくまで「表面の形状を変化させる」というだけなので、そういった心配はありません。
なお、銅は新型コロナウイルスに対しても効果を発揮しますが、ウイルスは細菌よりもはるかに小さいため、今回の技術で表面を加工しても影響はないそうです。
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