抗生物質耐性菌の蔓延を食い止めるべく人体に無害な紫外線の活用が探られている
抗生物質が効かない耐性菌が広まることで、大量の死者が出るのではないかと危惧されています。耐性菌とどう向き合うかについて様々な研究が行われる中で、紫外線によって耐性菌やウイルスを殺す方法が開発されています。
Far-UVC light: A new tool to control the spread of airborne-mediated microbial diseases | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-018-21058-w
The fight against superbugs may have a promising new weapon
https://mashable.com/2018/08/06/antibiotic-resistance-uv-light-treatment/
2016年に発表された研究で、抗生物質耐性菌がこのまま放置され蔓延すると、2050年までに年間で1000万人の命を奪う危険があると試算されました。毎年ガンによって死亡する人の数が約800万人であることを考えると、将来的に耐性菌はガン以上に人類にとって恐ろしい存在になりかねないというわけです。
Centers for Disease Control and Prevention(アメリカ疾病予防管理センター/CDC)によればアメリカ国内だけでも抗生物質耐性菌に感染して死亡する人は年間で2万人を超えており、潜在的な大災害を食い止めるために何らかの措置を取る必要があるのは明らかですが、有効な対応策はいまだに見つかっていないのが現状です。
そんな中、コロンビア大学のデイビッド・ブレンナー博士の研究チームは、紫外線光によって耐性菌などの感染を抑制する手法を開発中です。これまで紫外線に殺菌作用があることはわかっていましたが、それ自体が皮膚がんなどの健康上の問題を与え得ることから殺菌目的での利用は行われてきませんでした。ブレンナー博士は、有害な細菌を殺す能力を持ちつつ人体にとって安全な紫外線のごくわずかなスペクトルの範囲を発見したとのこと。
ブレンナー博士によると、この限られた範囲の波長をもつ紫外線は、波長が短すぎるため皮膚の最も外の層にさえ浸透できないとのこと。この紫外線の安全性が確認されれば、インフルエンザなどの空中に漂うウイルスを殺すことに利用できるとブレンナー博士は考えています。この紫外線はあらゆる病原菌を殺すことはできないものの、インフルエンザ、はしか、結核などの一般的なウイルスには非常に効果的だそうです。
さらに、外科手術での感染を抑制することも検討されています。抗生物質耐性菌が広がる最も一般的な感染経路は手術ですが、手術する部位に紫外線を当てることで耐性菌を効果的に殺すことが期待されています。また、カテーテルを挿入する部位など、身体の中で感受性が高まっている部位に紫外線を当てることで消毒作用をもたらすことも検討されています。
ブレンナー博士が開発する紫外線は、抗生物質耐性菌が広まるのを食い止めることには有効ですが、紫外線は一度感染した耐性菌に対して有効なものではないため、あくまで治療法とは言えません。CDCの感染症専門医のアレクサンダー・カレン博士は、耐性菌と戦うための方法の開発を続けていますが、まだ感染を最小限に食い止めるための基礎的な作業が必要な段階だそうで、耐性菌との長い戦いは始まったばかりです。
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