インタビュー

「BNA ビー・エヌ・エー」吉成曜監督&シリーズ構成・中島かずきインタビュー、「獣人がいる社会」をどう描いたのか?


2020年春の新作アニメの1本として、「リトルウィッチアカデミア」の吉成曜監督によるオリジナルアニメ「BNA ビー・エヌ・エー」がスタートします。吉成監督とタッグを組むのは、ヒット作「プロメア」を手がけた脚本家、中島かずき。いったい、2人でどのようにしてこの作品を生み出したのか、話をうかがってきました。

ちなみに、上の写真は作品を生み出したお二人の手。左が中島さん、右が吉成さんです。

アニメ『BNA ビー・エヌ・エー』
https://bna-anime.com/

© 2020 TRIGGER・中島かずき/『BNA ビー・エヌ・エー』製作委員会

GIGAZINE(以下、G):
「BNA ビー・エヌー・エー」は2020年4月放送開始ですが、企画はいつ頃から始まったんですか?

吉成曜監督(以下、吉成):
だいぶ前ってことはないと思うんですけど、「リトルウィッチアカデミア」の後なのは間違いないです。「リトルウィッチアカデミア」を放送したのが2017年ですか?

G:
2017年ですね。

吉成:
「リトルウィッチアカデミア」は続編をやる予定で1年くらい企画をもんでて、結局できないということになり、そこからなので……多分、2018年くらいからですね。

G:
なるほど。中島さんは今回脚本ですけど、どのタイミングで入ってこられたんですか?

シリーズ構成・脚本担当 中島かずきさん(以下、中島):
2019年の5月か7月……?

吉成:
そんなくらいですね。

中島:
ですよね。僕が行ったときには、影森みちると大神士郎のおおまかな設定は決まっていました。男女二人の獣人がメインで、若い女性の方が主役で獣人世界に初めて入っていく。男の方は獣人世界の代表のような存在で女性に獣人世界を教えるポジションになる形のバディ物だということくらいは。


G:
すでに決まっている段階だったんですね。今回、脚本を中島さんにというのは監督の希望だったんですか?

吉成:
やっていただけるんだったら頼みたいのはもちろんでしたが、きっかけは……

中島:
僕からだと思いますよ。僕が大塚社長と「TRIGGERさんとまた何か仕事できない?」という話をしたときに「だったら今、吉成監督でこういうのが進んでるんで、とりあえず企画聞いてもらえる?」みたいな感じで、最初はオブザーバーみたいなところから始まって、「これだったらもうちょっと僕もつっこんでやりたいですね」って話になって、企画に入っていった感じです。

G:
吉成監督から見た中島さんは、どんなイメージですか?

吉成:
なんでもやってくれる……

(一同笑)

G:
「なんでもやってくれる」!?(笑)

中島:
よくしゃべる人だなって?

吉成:
「1聞いたら10返してくれる」みたいな感じで。

G:
なるほど。

吉成:
だから、あとは気持ち良く自主的に、と。

G:
脚本作りはどのように進めていったんですか?

吉成:
まずは「女の子が主人公」というところです。中島さんが今石洋之さんとやっていることじゃないことをやっていただいた方が差別化できるといいますか。今石さんと同じ方向へ走っても、多分僕は今石さんのようなものは作れないので。かといって、僕は割とシリアスなものが好きなんですけど、中島さんはシリアスに振っちゃったら超シリアスになると思うので、「お互いシリアスとシリアスをかけ合わせることになるとまずいな」と。「女の子が主人公」というのは、シリアスへのブレーキだったと思います。


G:
先ほど、中島さんが入った時にはある程度キャラクターの設定が決まっていたという話でしたが、中島さんが脚本をやるにあたって、設定が決まっている場合の書きやすさや書きにくさというのはどうなのでしょうか。また、本作で特に気をつけたことはありましたか?

中島:
そういう意味では本当にチャレンジでした。吉成さんたちが進めてた企画として、主人公の女の子が社会にぶつかって、社会の中で自分の居場所を探すんだ、みたいなことをやりたいという話が最初にありました。「自分が入ったことでブレさせてはいけない、自分が得意な方に持って行っちゃいけない」と思って、監督の意図をどれだけ汲んで、自分が助力できることは何だろうと考えて進めていたのは間違いないです。

G:
制作発表時、公式サイトにお二方のコメントが掲載されていて、「アニメ視聴者が最も気になっているタイトル『BNA ビー・エヌ・エー』に込めたお気持ちやお考えをお聞かせ頂けますでしょうか?」という質問に対し、吉成監督は「BNAはタイトルにBRAND NEW ANIMALと入っていますが、BEAST NEW AGEでもいいしBEING NEO ANIMALでもBEASTとDNAの合成でもいい、ただどんなものにも変化し得る新しい存在という意味では共通しています。タイトルに込めた思いは色々な囚われているものからの解放というのが一番大きくて、あとは本編を見た人がそれぞれで感じてくれればいいなと思っています」と答えています。この回答にある「色々な囚われているものからの解放」というテーマはどこから出てきたのでしょうか?

吉成:
中島さんからも「獣人というのは『自分がこうなりたい』というものになっている人たちなんだ」ということは言われたんです。


中島:
でも、それは吉成さんが「囚われたものからの解放が見たい」と言っていたので、アンサーとして用意したんですよ。

G:
ほうほう。

吉成:
「卵が先か、鶏が先か」みたいなことに(笑)

G:
(笑)

中島:
(笑) 「そういうものがやりたい、そして獣人ものがやりたい、っていうことはこういう理屈ですよね?」って返したんだと思います。色んなパーツがあって、「大体こういうことをやりたい」と監督が言っている方向に筋を通すなら、こう考えればいいんじゃないか、こういう設定や展開にすればいいんじゃないか、と。事象があって、そこに僕が理屈をつけていったという感じです。

G:
序盤のエピソードを見たとき「こういう展開なんだ」と、見てちょっと意表を突かれました。

中島:
どういったところですか?

G:
みちるの見た目から「そんなにシリアス方向の話ではないだろう。PVではあえてシリアスっぽく見せつつ、獣人が出てくる気楽なノリなのかな?」なんて思っていたら謎、謎、謎の連続で……全然目の前の謎が解決せず「どうなっていくんだ!?」と思いながら見ていました。


中島:
なるほど(笑) アメリカの連続ドラマみたいな感じのタッチで作りたいなっていう話をしたんです。

G:
納得です。オープニングもやたらめったらかっこいいんですが、これは……?

中島:
それは「吉成アニメだから」ですよ!(笑)

G:
一体何をどうしたら、あんなすごいアニメになるんですか?どうやったらあんなのが描けるんですか?

中島:
吉成さんだからですよ!しょうがないじゃないですか!

G:
あれは曲を聞いて思い浮かんだんですか?それとも曲に合わせたんでしょうか?

吉成:
僕はあんな曲がくると思っていなかったので、全然イメージはなかったんです。だから、曲優先で考えました。

中島:
えっ、先に曲を聞いてから作ったってことですか?

吉成:
そういうことです。

G:
それであんなにも合っているんですね。見たときに素直に「すごい」って思いました。

中島:
かっこいいですよね。「キルラキル」の最初のオープニングも吉成コンテでしたから。

G:
エンディングも結構変わったものですが、あれはどういった意図があるのでしょうか。コンセプトアートの方がカートゥーンっぽいからというのもあるのでしょうか。

吉成:
それはありますね。僕としては一応、キャッチーな絵を作ろうと思ってやっているんですが、僕の中にはキャッチーな要素はないので、なんとかしようと……。

中島:
海外の方にお願いしてるから、そのセンスでやりたいって思ったんですよね?

吉成:
そうです。

G:
「キャッチーな要素がない」というのは一体……?

吉成:
いつもプロデューサーに「華がない」って。

(一同笑)

中島:
そんなことないんだけどなぁ。

G:
「華がない」!?

中島:
ね。見えないですよね。

G:
吉成さんほど絵を描ける人、そんなにいないですから。

中島:
本当に、僕もそれは不思議。

G:
吉成さん自身の自覚としても「華がないな」と思うことはあるんですか?

中島:
「絵がリアルになっちゃう」ってことかな。

吉成:
「上手い、下手」と、「人を引きつける」はまた全然違うと思うんです。今石さんは「自分の絵の限界」みたいなところもよく分かっていて、どういう要素を取り入れるかも常に考えて作っているんですけれど、僕もその点は甘えないでちゃんと考えないといけないなと。

中島:
吉成さんは描けちゃうからね。

G:
そういうことなんですね。他のインタビューでも「リトルウィッチアカデミア」の反省で、「絵コンテをちゃんと見ないと監督って駄目なんだなと思った、もう終わってた」みたいなことをおっしゃってたんですけど、今回、監督をやっている中で、このあたりが大変だっていうのは絵コンテ以外ではどこになるんでしょうか?

吉成:
そうですね……大変なことばっかりなんで……

G:
(笑)

吉成:
僕にとっては、毎日人と話をしなきゃいけないのが大変です。

中島:
なるほど(笑)

吉成:
監督って、実作業じゃなくてほとんど打ち合わせで、つまり「言葉で伝えなきゃいけない」んです。自分で線を一本引けば済むことを、言葉で説明しなきゃいけない。それが結構大変です。「リトルウィッチアカデミア」から引き続きやってくれている人はいいですけれど、「はじめまして」の人もいるので、そこをまた1からやるというのは結構気が重かったところです。

中島:
でも、「天元突破グレンラガン」の頃に比べたらしゃべるようになったと思います。

G:
そうなんですか?

中島:
「グレンラガン」のシナリオ打合せの時にたまに吉成さんが参加されることがあったのですが、本当に一言二言、正鵠をズバッと射貫いて去って行くみたいな感じでした。無駄口だけの自分たちと比べて「男たるもの無駄口ばかりじゃいけないね」って反省をしてました(笑)。

吉成:
どんな人間なんですか(笑)

中島:
それはもう、かっこいい。

(一同笑)

G:
中島さんはTRIGGERだと今石監督と組む作品が続きましたが、吉成監督と一緒に作品を作る中で、新しい発見みたいなものは何かありましたか?

中島:
やっぱり全然アプローチが違うし、自分としても心構えから違うつもりでいます。自分が1から作った企画ではなくて、吉成さんたちが作った企画を下からどう支えられるか、みたいなことをやろうと思っていたので、そのポジションのバランスの難しさは、いろいろ考えさせられるところがありました。

G:
公式サイトでも、中島さんのコメントで「吉成監督のアニメがすごいのはみなさんもよくご存じでしょう。今回は彼がやりたいものにどれだけ力添えできるかというスタンスで臨んでいます」とありましたが、どれぐらい力添えできている、という感触はありますか?

中島:
本当に力添えできたのかどうかも含めて、こればっかりはちょっと僕も分からないところです。

G:
吉成監督から見ると、どうですか?

吉成:
僕はもう「中島さんにやってもらってる」みたいな感じです。

(一同笑)

吉成:
だって、何も進まなかったですから。

G:
進まなかった?

吉成:
「BNA ビー・エヌー・エー」が本当に動き出したのはほんと少し前のことで、中島さんがいなかったら、今でも脚本をこねまわしてたかもしれない。

中島:
間に合ってないから(笑)

(一同笑)

G:
先ほどの「1聞いたら10返してくれる」というところにつながっていくわけですね。

吉成:
必ず何か出してくれるんです。

G:
すごいですね。

吉成:
百戦錬磨です。

中島:
いやいや、もちろん取捨選択はありました(笑) 今、思い出したけれど、たとえば獣人の設定で「こういう設定はどうですか?」って出したら「いや、違う」と。「アニマシティはもっとコスモポリタンな感じにしたいんで、世界中の獣人がそこに集まっているようにしたいんだ」って言われて、「ということは『世界中に獣人がいた』ということにしなきゃいけないわけですね。なら『獣人はどこかの国の軍事組織が作った』みたいな設定はありえないので、次の設定を考えます」……みたいな感じで組み立てていきました。

G:
なるほど。1つずつ潰していくような感じで。

中島:
何か出すとリアクションで要望が来る。その要望を受けて次のステップに進む、という感じでした。

G:
すごい……本当に大変ですね。

吉成:
ほぼ丸投げから始まるっていう(笑)

G:
丸投げ(笑)

中島:
ただ、本当に「みちると士郎の話がやりたい」「みちるが描きたい」というのが吉成さんの中で一番にあると感じていて、それは僕のような60過ぎた男が独断でやってはいけない部分だと思っていました。だから、みちるとなずなのところは、プロデューサーの堤尚子さんや、脚本のうえのきみこさん、樋口七海さんといった方々とともに固めていこうと。


G:
なるほど。

中島:
「獣人というものがいる世界って何?」という社会構造みたいなものや、社会の中で獣人がどういうものなのかという部分は俺が考えるから、その中に置く主人公たちの動きは吉成さんたちがやりたいようにする。そのために、どれだけブレないようにやれるかを考えよう、という感じでした。


G:
ははーぁ……一体、どうやればこんな世界ができるんだろうと思っていました。

中島:
どっちかって言えば、編集者時代のスキルが役立ったかもしれませんね。

G:
なるほど!

中島:
若い頃、漫画アクションの編集者を7年やってましたから。

G:
当時も、漫画家さんから出てきたものを組み上げていた感じですか。

中島:
そういうことです。実は、今回の仕事について今石さんがニヤニヤしながら「漢字の方の顔してますよね」って言ってたんです。漢字で「一基」が会社員としての顔、「編集者・中島一基」というわけ。ひらがなの「かずき」だと脚本家で、今石さんとはひらがなの方で「イェーイ!!」ってやってるんですけれど、「BNA ビー・エヌ・エー」だと漢字の一基のほうのスキルも結構使ったな、みたいなところはあります。

G:
吉成監督からすると、頭の中にあるイメージを「こんな感じ」と投げたら中島さんが「こう?」って投げ返してくるわけですよね。そのやりとりで、ビジュアルイメージが固まっていたという感じでしょうか。

吉成:
そうですね。そもそも「街を作る」というところから始めていて、キャラクターだと、なずなやアランは主人公側2人との対比として、中島さんのアイデアとして出てきました。

なずな


アラン


G:
なるほど。先ほどから今石さんの名前が登場しますが、実際、第1話では絵コンテを吉成監督と今石さんが担当しています。2人で、どのように分担したのですか?


吉成:
普通は分担するのは難しいんですひとつながりの話なので、でも、このあたりなら好き勝手できそうだな、と。

G:
「好き勝手」(笑)。今石さんが、ですね。

吉成:
なんだかんだで、今石さんとはずっと仕事をしているので「今石さんはどういうことができるか」みたいなことはわかっているので、無理なことは頼みません(笑)

中島:
そうだよね。「男女が出会って、静かに気持ちを交わしあうシーンをやってください」とかは、俺とか今石さんには振られない。

(一同笑)

吉成:
今石さんにはメインストーリーをそんなに気にしなくてもいいような部分を振っている感じです。アニメーターの中には、「もらったパートをこなす、他のことは知らん」みたいなやり方をする人もいますけれど。

中島:
クレジットされなくても実は分割してやっているというのは結構あるじゃないですか。それを、ただ堂々と出しているだけですよね。

G:
絵コンテは得意な人、苦手な人がいるようなのですが、吉成監督はいかがですか?

吉成:
ほとんど素人同然みたいな感じ。

(一同笑)

中島:
いやいや(笑)

G:
おそらく言葉のままではないと思うのですが、どういう意味で「素人同然」なんですか?

吉成:
しっかりしたシナリオがあれば、基本、コンテは誰でも描けるんです。

G:
えぇ……(笑)

中島:
そんなことないですよ。「プロメア」でピザ屋のシーン、吉成さんですよね?

吉成:
はい。

中島:
やっぱりあのパートに入った瞬間、「あっ、吉成パートだ」って思いますよ。コンテを見ていて、空間の取り方や、画面の「シリアス感」と言うのかな……人物の存在している視点とか、カメラワークとか、パースも含めて、吉成さんじゃないとできない。アニメーションだけどある種のリアルな感じというのは、吉成さんの力ですよ。

G:
ほうほう。

中島:
今回の作品でいうと「獣人がいる社会」という、その「社会を描く」を含めて非常に吉成さんに合った素材だと思います。獣ですから、知能指数低めでワーッと戦うところは今石さんが好きだからやると、そういうことはあると思います。今石さんの知能指数がということではなく(笑)

G:
映画「リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード」公開に合わせて、2015年10月にアキバ総研で吉成監督へのインタビューが掲載されているのですが、その中で「自分が監督になると、自分が描くのではなく人に描いてもらうのが仕事になるわけで、そこでのスタッフワークというかいかに適材適所に人を配置していくかが重要になってくるなと思います。自分で最初からイメージ固めて、こうやってくださいというよりは、その人ができることを探すという感じでしょうかね。そう考えていかないとストレスになってしまうんですよね。『自分で描いたらこういうふうにできるのに』と考えるのではなく、どう生かしていくかというふうに発想を変えないとダメですね」という話をしておられます。今回も、スタッフワークはこんな感じで進めたのですか?

吉成:
そんな立派なことを言ってましたか……

(一同笑)

吉成:
そうですね……人を生かすためにはその人を知らなきゃいけなくて、そのためにはある程度、一緒に仕事をする必要があるんですけど、「はじめまして」の人だと、シリーズが終わるころにならないとわからないんですよ。

中島:
そうですよね。

吉成:
アニメ業界は結構人が入れ替わりますから。だから「『リトルウィッチアカデミア』をやってくれた人に、今回はもうちょっと重要な仕事をやってもらおうかな」とか、そういうこと考えながらです。

G:
初めての人のことは、どのようにして見極めるんですか?

吉成:
絵描きであれば、絵を見れば「何が描けるか」みたいなところは大体分かるんです。難しいのは演出やコンテですね。中島さんも、ある意味では「はじめまして」でしたが……。

中島:
そうですね(笑)

吉成:
いろいろぶん投げてみて(笑)、「お、こういうの出してくれたのか」みたいな。そういう、結構厳しいことをやらないと分からないところがあります。こっちは気軽といえば気軽なんですよ、返ってくるものを判断すればいいだけなので。

G:
なるほど。「監督の仕事」というのは、仕事の割当を片っ端からやっていくというイメージでしょうか。

吉成:
そうですね。とりあえず投げてみて、できなかったら「ああ、できないんだ」と。

G:
なるほど(笑) 続いて、TVアニメ版の「リトルウィッチアカデミア」の放送が終わった後、2017年のアニメイトタイムズのインタビューで、吉成監督は「本当はもうちょっと演出を勉強したかったですね。ずっとアニメーターとしてやってきたので、演出はあまりやっていなくて」と答えているのですが、これはどういった「演出」のことを指しているんですか?

吉成:
「そもそも、監督と演出って違うの?」というところからですよね。アニメで「演出」というと各話演出のことです。全体を見つつ、といってもシリーズ全体ではなく1話分全体ですが、その話数の絵コンテで求められている要素を実現するために組み立てていく人です。自分でコンテを描いて演出する人もいますが、「組み立て」といってもとにかくすごい物量があるので、1話全部を見てコントロールするというのはすごく大変で過酷な仕事です。僕は、そこは結構逃げてきたというか、やるチャンスがあまりなかったんですよ。

G:
ほうほう。

吉成:
本当はやりたいんですけれど、一番大変なところを経験していないのでちょっと問題があるというか、「基礎体力ができていない」という気がしているんです。

中島:
今石さんはやってるんですか?

吉成:
今石さんは自分で絵コンテも演出もやってて、かなり経験を積んでいます。僕はあんまりやってなくて。

中島:
絵は描いているけれど、演出はやっていないという?

吉成:
そうですね、コンテだけやっていて演出はやってないです。本当は監督をやる前に、各話の演出として修行をしなきゃいけないんですよ。だから、監督はもっと経験を積んでからやるべきところかな……。どういう戦力配分にするかとか、細やかなところがつかみきれない。あまり細かい戦略が立てられないといいますか。

G:
そういうものなんですね……。

中島:
「監督は総合判断」というのはよくわかりますが、そうか、演出やってなかったんだ。勝手に思っているだけですけれど、絵が上手すぎて、絵をずっとやられていたんだなと。それを求められていたのもあって、絵描きに特化する形になったのかな。

吉成:
本当はちゃんと上がっていくステップがあるんですけれど、途中をスキップしちゃった感じがあるんです。

中島:
でも、なんだろうな……。これだけの絵を、アニメを描かれているから、はたから見ているとできるように思えちゃう。

G:
見ていると「できていない部分がある」というのは分からないですね……。

中島:
画力に圧倒されますからね。

吉成:
いろいろすっぽ抜けているものはあって、細かいところを大塚(雅彦)さんとかに指摘されて「そうか、そういうところは全然気にしていなかったな」みたいになるんです。

中島:
逆に、演出は絵が描けなくてもできる部分があるということですね。

吉成:
そうですね。「絵描きとして気にしていなかった」というか、抜けていたりするところがあるという。

中島:
吉成さんは、本当はずっと絵が描ければいいの?それとも、やっぱり監督をやりたいの?

吉成:
僕は、絵が描きたいです。

(一同笑)

中島:
絵が描けるんだったら、ずっとそれを続けていきたい?

吉成:
ずっとそれを続けていきたいですね。

G:
その吉成さんが絵を描き始めたのは、いつごろだったんですか?

吉成:
子どもは、みんな絵を描くものじゃないですか(笑)

中島:
それは確かに(笑) その頃からうまかった?

吉成:
別にうまくはなかったですよ。みんな絵は描きますよね?

中島:
描きますね。吉成さんが「絵を描いて食っていければいいな」と思ったのはいつぐらいなんですか?

吉成:
小学生くらいの時ですが、「食っていく」とはちょっと違って。

中島:
「描き続けていたい」みたいな感じ?

吉成:
アニメーションをやりたかったんです。別に商売じゃなくても、絵が動かせれば、と。

中島:
やっぱり、小学生くらいのときにはパラパラマンガを?

吉成:
ずっとパラパラマンガばっかりやってました。

G:
そこからなんですね。

吉成:
だから、「パラパラマンガじゃなくて、ちゃんとフレームで動かしたい」みたいなのがありました。ガンダムがきっかけだったと思います。安彦良和さんの絵が、どう見ても上手くて。

中島:
うんうん。

吉成:
「こんなに絵がうまい人が描いているんだ」というのと、原画を見たときに「あれ、フィルムと全然違う。こんなにもすごい、いい絵だったんだ」って、単純に憧れみたいなところもありました。

G:
最初から上手かったわけではないということですが、ずっと描き続けたことで上手くなったんですか?それとも、やはり努力が?

中島:
お兄さんと描いてたんだよね。

吉成:
自分だけでやっていたら、多分伸びなかったと思います。

中島:
上手い兄弟ですから。

G:
吉成さんは自分の絵を上手いとは思っていないのですか?

吉成:
だって、上手い人はいくらでもいますから。上を見たら、必ず上の人がいるんです。

(一同笑)

中島:
でも、下を見るといっぱいいるじゃない?

吉成:
下を見る必要はないじゃないですか。

G:
なるほど、確かに。

中島:
「頭の中にあるものが、ここに描けるな」って感じはあります?

吉成:
それも、100%はできてないなと思います。できれば頭の中にあるものをぱっと出したいですけど、そこまではいってないですね。

中島:
なるほどね。

G:
なるほど。今回、「BNA ビー・エヌ・エー」では、吉成監督は自分で直接描くのではなく、指示を出す立場になっていますが、ストレスは溜まったりしませんか。うまく割り切れているのでしょうか。

吉成:
それは話してもしょうがないことですよ。

(一同笑)

G:
「リトルウィッチアカデミア」の時に、内容についていっぱい削らざるを得なかったという話を多数見かけますが、「BNA ビー・エヌ・エー」ではそのあたりはどうでしたか?

吉成:
めっちゃ削ってますよ。

中島:
削ってますねえ。

吉成:
中島さんの特徴かもしれないですが、それぞれのキャラクターに動機というか、「それぞれの正義」があるんです。それを全部描くと群像劇になってしまいます、主人公であるみちるの視点で捉えなきゃいけないということで、結構、登場人物の内面を見せるところを切っている感じはあります。中島さんに用意してもらった部分だったんですが。

中島:
もちろん、そういう作品として、あくまで「みちるから見た視点」で描いていますから落とさざるを得なかった部分はあります。でも、それでいいと思っています。こちらがちゃんと考えて作っていれば、「あとは彼らの行動を見てください。行動に筋は通しているので、過剰な説明はしません」で大丈夫だろうということです。今回は、みちると士郎の関係が主軸ですから。

G:
脚本を書く時点でも、今おっしゃったような感じで取捨選択しつつ?

中島:
そうですね。設定でも、言いたいことや説明しなきゃいけないことはあるけれど、「ここはとりあえず、なんとなくこうなっているよ。分かってね」というのはあります。

G:
「BNA ビー・エヌー・エー」の内容の取捨選択で、難しかった部分はありましたか?

中島:
それはやっぱり、みちるです。「みちるとなずな」かな。みちるということを描くことの難しさ。設定が結構多かったので、それを削りつつ、みちると士郎の話に収束させていくにはどうしたらいいか。監督からは「みちるをもっと描いて」と言われましたので、常にみちるのことを中心に置くことを念頭に置きました。


G:
なるほど。絵の方では、獣人キャラクターがいっぱい出てくる作品ということで、昨今、ブームなのか、動物キャラクターが出るアニメがとても多いですが、獣人を描くにあたって気をつけているところ、こだわって描いている部分はありますか?

吉成:
こだわるというか、「なぜこんな設定にしちゃったんだろう」というのはあります。獣人は変身するわけですが、そのためには2種類の姿形を作らなきゃいけないんですよね。それも、いろいろな動物がいて法則性がなくバラバラ、でも統一されてなければいけないということで、単純に難しくて、大変なことになってしまったなと思います。ただ、完全なファンタジーじゃなくて現実と地続きというか、現実の世界に「異物」が、現実とは違うパラレルなものが存在しているみたいなことがやりたかったので。


G:
「リトルウィッチアカデミア」終了後のインタビューで、今後やってみたいお話について、吉成監督は「もっと軽いノリで毎日、帯の5分枠でやれたらいいなと。お子さんやご家族で見てもらうなら朝か夕方ですよね」と答えていましたが、この「BNA ビー・エヌ・エー」はそういったイメージに通じた作品ですか?

吉成:
全然違います(笑)

中島:
真逆(笑) わりとシリアスめですね。「『獣人』というものがこの社会にいたら」という、ある種の思考実験みたいなところがあります。本当に獣人がいたらどういうことになるかという描き方なので、冒頭から重めですね。


G:
想定としては、制作時点の2019年~2020年の世界というイメージですか?

中島:
「獣人がいる」ということがはっきりして50年くらい経っているので、分岐はしていますけど、「もしも『獣人がいる』とわかって50年くらい経ったら、だいたいこんな感じになっているんじゃないかな」という感じです。あまりそこを描写していてもきりがないので、ちょっとファンタジーにしているところもありますけど。

G:
今回、アフレコスタジオでインタビューの場を設けてもらいましたが、立ち会って、どういった指示を出されるのですか?

吉成:
お互い、気になったところを個別に言っていくようなことをしています。

中島:
作品を作る上でのトーンとか、「こっちの方がいいんじゃないですか」とか言ったり、「じゃあ、セリフちょっといじりましょうか」とその場でやることもあります。

吉成:
尺の都合上、僕がいろいろ切ることでセリフの整合性が合わなくなることがあり、そういうものは中島さんに都度、監修してもらいます。

G:
中島さんは演劇の脚本などもされていますが、アニメ独特の直しというものはありますか?

中島:
尺の問題ですね。「この尺の中で収めなきゃいけない」という大前提があるので、「だったらこういう言い方で」とかが出てきます。

G:
最後の質問になるんですけれども、今回、「BNA ビー・エヌー・エー」の視聴者層としては、どういった人たちを想定していますか?

吉成:
……「すべての人」ですね。

中島:
そうですね、すべての人。特に獣に変身できる人におすすめです。(笑)

(一同笑)

中島:
このアニメを見て、ちょっと元気になってもらえばいいなという風に思っていますので、楽しんでいただければいいですね。

G:
最後に吉成監督、もし「これは言っておかなければならなかった」という言い残したことがありましたら……

吉成:
「言っておかなければならなかった」といえば、中島さんの悪役に対する考え方ですかね。

G:
悪役に対する考え方?

中島:
どういうこと?

吉成:
僕は、未だに「天元突破グレンラガン」のアンチスパイラルが言っていることは正しいと思っています。

(一同笑)

中島:
でも、アンチスパイラルの理屈は管理社会だから、「管理社会だとこうなるよ」という話で、「それはやっぱり危険だよ」というのがシモンたち。そういう意味だと「BNA ビー・エヌ・エー」もそうじゃないですか?

吉成:
敵側の言うことに「義」があるんですよね。立場が違うことで、「善悪の反転」がある。

中島:
まあ、そこは物語の背骨として、敵側にも「理屈」を作ることはずっとやってきたので。でも、敵側の「理屈」が一見理に適ってるようでも、そこには破綻があるようにも描いているはずです。

G:
「BNA ビー・エヌー・エー」と、意外なところがつながるのかもしれませんね。本日はありがとうございました。

アニメ「BNA ビー・エヌー・エー」は、4月8日(水)25時5分からのフジテレビ「+Ultra」枠での放送を皮切りに、関西テレビ、東海テレビ、テレビ西日本、青森朝日放送、北海道文化放送、BSフジで放送開始。


なお、Netflixでは放送に先駆けて、第1話から第6話の先行配信が行われています。

BNA | Netflix
https://www.netflix.com/jp/title/81220429

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