サイエンス

「新型コロナウイルスのイメージ画像に使われる色」はバラバラ、ウイルスの画像にあえて色を着けることの意味とは?


新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に関するニュースは日々大量に報じられており、「新型コロナウイルスの画像」をTV番組やインターネット上で見ることもあります。そんな新型コロナウイルスの画像に使われている「色」は、あくまでも画像の作成者が勝手に決めたものであり、統一されているわけではありません。「一体なぜ、さまざまな色が付いた新型コロナウイルスの画像が報じられているのか」という疑問について、オーストラリアのニューカッスル大学で上級講師を務めるサイモン・ウィービング氏が解説しています。

Scary red or icky green? We can't say what colour coronavirus is and dressing it up might feed fears
https://theconversation.com/scary-red-or-icky-green-we-cant-say-what-colour-coronavirus-is-and-dressing-it-up-might-feed-fears-134380

新型コロナウイルスといえば、以下の画像のように球形の本体から多くの突起が飛び出している画像を連想する人も多いはず。以下の画像では灰色の本体に赤色の突起という色になっていますが……


別の画像を見ると、全体が緑色に塗られています。


画像によって新型コロナウイルスの色が違う理由は、作成者の持っている知識に違いがあるというわけではありません。実際にアメリカ国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が画像共有サイトのFlickrで公開している画像を見ても、青色の本体に赤色の突起というパターンや……

by NIAID

全体が明るいオレンジ色

by NIAID

ラベンダーのような紫色

by NIAID

黄色の本体にオレンジ色の突起など、色合いはさまざまです。

by NIAID

このように新型コロナウイルスの色がバラバラなのは、超微視的世界において色を知ることが難しいからだとウィービング氏は指摘。人間は色を知覚する上で光に依存しており、対象の物体に当たった光の一部が吸収され、残りが反射されて目に届くことによって色を知覚しています。たとえばリンゴを見て「赤い」と感じるのは、リンゴが光の波長の多くを吸収する一方で、赤い波長を反射しているためです。

しかし、対象となる物体が小さすぎると、光は物体を認識するための効果的なツールではなくなります。ウイルスは非常に小さいため、光学顕微鏡を使ってウイルスを見るのは「サーチライトを使ってサッカースタジアムからアリを探すようなもの」だとのこと。

科学者がウイルスを見ることができるようになったのは、光の代わりに電子線を使って対象を観察する電子顕微鏡が開発された後のことです。波長が可視光線よりもはるかに小さい電子線を用いることで、光を使って見ることができないウイルスの構造を観察可能となりました。

ところが、電子顕微鏡は対象を観察する上で光を用いていないため、対象の「色」を知ることができません。このため、電子顕微鏡で見るウイルスは、実際には以下の画像のように白黒の状態です。

by Sanofi Pasteur

ところが、「見慣れない灰色の塊に過ぎない画像は、説得力のある、ないしは感情をあおるようなメディアコンテンツになりません」とウィービング氏は指摘。実際に、ウイルスの流行について報じた過去のニュースでは、ウイルスそのものの画像よりも「ウイルスに関連したインパクトのある画像」が多く用いられたとのこと。

1995年に発生したエボラウイルスの流行では、「アフリカに乗り込んで流行の終息に向けて働く西洋の医療専門家グループ」の画像が多く使われました。また、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が発見された際のニュースでは、「エイズを発症して衰弱した若い男性の画像」が多く使われたとウィービング氏は述べています。

今回の新型コロナウイルスでは、症状そのものは風邪やインフルエンザと類似しており、死亡者も高齢者が大半を占めていることから、インパクトのある画像が比較的少なくなっています。そのため、着色してインパクトのある見た目になった新型コロナウイルスの画像が、ニュースなどでよく用いられているそうです。

by NIAID

しかし、ウイルスにあえて毒々しい着色を行うことにより、ウイルスの脅威が過度にかき立てられたり、人々がパニックに陥ったりする可能性もあります。そこでウィービング氏は、ウイルスを観察した電子顕微鏡で見える通り、「灰色の存在」としてウイルスを表現することを推奨しています。

「ウイルスを灰色で表現することにはいくつかの明確な利点があります。まず1つ目が、光が届かない場所では色がないという科学的な考えに当てはまる点。2つ目が、灰色の画像はウイルスの脅威を軽減するという点です。赤い突起や緑色の本体がなければ、SFファンタジーにおける敵対的な侵入者のようには見えません」とウィービング氏は述べ、新型コロナウイルスは灰色で表現した方がいいと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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