サイエンス

アフリカの狩猟採集民族は先進国の人々と同じくらい長時間座っていると判明

by Lars Jussaume

長時間座りっぱなしの生活を送ることは、さまざまな健康上の問題を引き起こすといわれています。人間が長時間座るようになったのは工業化の影響が大きいとされていますが、新たな研究により「狩猟採集民族であっても先進国の労働者と同程度か、それ以上の時間を座って過ごしている」ことが判明しました。

Sitting, squatting, and the evolutionary biology of human inactivity | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/03/03/1911868117

Study of hunter-gatherer community shows that how humans rest may affect their risk for heart disease
https://phys.org/news/2020-03-hunter-gatherer-humans-rest-affect-heart.html

Modern hunter-gatherers are just as sedentary as we are | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/03/modern-hunter-gatherers-are-just-as-sedentary-as-we-are/


長い間座りっぱなしで過ごしていると代謝量が低下して肥満の原因となるほか、心臓への血流が阻害されて心血管疾患のリスクが上昇するなど、さまざまな健康上の悪影響が生じるとされています。人間が長時間座りっぱなしでいると健康に悪影響が及ぶ理由として、「数百万年にわたって狩猟採集の生活スタイルを送っていたため、人間はアクティブな生活スタイルに適合している」という説もありますが、これまでは実際に狩猟採集民族の生活スタイルを細かく分析した研究はなかったとのこと。

そこで南カリフォルニア大学の研究チームは、タンザニアに住む狩猟採集民族のハッザ族と協力して、アクティビティトラッカーを用いた実験を行いました。ハッザ族はおよそ4分の1に当たる300人程度が伝統的な狩猟採集生活を送っており、メンバーがたびたび入れ替わる30人ほどの集団で暮らしています。

by Woodlouse

研究チームは28人のハッザ族の人々に、アクティビティトラッカーを装着したまま1週間生活してもらい、期間中にどれほど運動していたのかを解析しました。調査対象となったハッザ族の人々が1週間のうちに口にした食料のうち、およそ97%が狩りで捕まえた獲物やベリー類、塊茎といった周囲の自然から狩猟採集によって得られたものだったそうです。

分析の結果、意外なことに「狩猟採集民族であるハッザ族の人々は、それほど長い時間運動しているわけではなかった」ということが判明しました。典型的なハッザ族の成人は、目を覚ましている時間のうち10時間近くをほとんど動かずに座って過ごしていたそうです。座って過ごす時間が1日あたり10時間という結果は、オランダやアメリカの人々とほぼ同じであり、オーストラリアの平均より長いとのこと。

もちろん、ハッザ族の人々と先進国の人々との間には大きな違いもあったそうで、ハッザ族の人々は動いていない時間こそ長かったものの、体を動かす際には活発な身体活動を行っていたそうです。また、統計的には有意でなかったものの、動いていない状態と動いている状態を移行する回数も、先進国の人々より多かったと研究チームは述べています。

by Christoph Borer

さらに研究チームは、ハッザ族の人々が住んでいる場所にカメラを設置し、起きている時間の「姿勢」についても調査を行いました。その結果、ハッザ族の人々は体を動かしていない時に丸太や石の上に座ることが少なく、座っている約半分の時間で平らな地面の上に座っていることが判明。その上、座っている時間の3分の1以上で、「しゃがむ、あるいはひざまづく」という姿勢をとっていたことがわかりました。

研究チームが電極を使用してしゃがんだりひざまづいたりする際の筋肉の活動を調べたところ、しゃがんだりひざまづいたりする姿勢はイスに座る場合と比較して、より筋肉の活動が大きいことがわかったとのこと。歩いている方が筋肉の活動量が大きいのは当然ですが、工業化された社会で一般的な座り方と比較して、ハッザ族の人々の座り方はより多くの筋肉を使っているそうです。


ハッザ族の人々は心臓に関連する健康の指標において、先進国の人々より優れていることがわかっています。この点について、研究チームはしゃがんだりひざまづいたりする座り方が影響している可能性があると考えています。研究チームの一員であり、南カリフォルニア大学で生物学教授を務めるDavid Raichlen氏は、「ソファに座ってダラダラ過ごすカウチポテト族であることや、オフィスのイスに長時間座っていることは、しゃがんだりひざまづいたりするより筋肉の活動が少なくなります。軽いレベルの筋肉活動にも燃料が必要であり、これは一般的に脂肪の燃焼を意味するため、しゃがんだりひざまづいたりする姿勢はイスに座るほど有害ではないかもしれません」と述べました。

その一方で、今回の研究に協力したハッザ族の人々は食生活が先進国の人々と大きく違う点や、動いている間は活発に体を動かしている点などが、心臓の健康に影響を与えている可能性もあります。それでも今回の研究は、座りがちなライフスタイルによる悪影響を軽減する議論に対し、重要な貢献を果たすものだとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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