学校の始業時刻が違うと生徒の成績はどのように変化するのか?
人にはそれぞれ個別の睡眠サイクルがあることが広く知られるようになり、近年では「朝早くから学校の授業を行うことは夜型の生徒の成績に悪影響を与えるのではないか」という懸念も強まっています。アルゼンチン・ブエノスアイレスの国立科学技術研究評議会の特任研究員であるMaria Juliana Leone氏らの研究チームは、それぞれ違った始業時刻で生活する生徒たちの間で、成績にどのような違いが現れるのかについて調査を行いました。
Interplay of chronotype and school timing predicts school performance | Nature Human Behaviour
https://www.nature.com/articles/s41562-020-0820-2
Out of synch: Adolescents’ internal timing and school start times | Behavioural and Social Sciences at Nature Research
https://socialsciences.nature.com/users/354278-maria-juliana-leone/posts/59485-out-of-synch-adolescents-internal-timing-and-school-start-times
Do morning people do better in school because school starts early? | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/02/do-morning-people-do-better-in-school-because-school-starts-early/
朝型の人と夜型の人では、過ごしやすい就寝・起床時間に数時間ものズレがあります。「思春期の若者を知っている人なら、誰だって彼らが非常に遅い睡眠サイクルを持っていると感じるでしょう」とLeone氏は指摘し、インターネットをはじめとする娯楽の発達や生物学的な理由によって、学校の生徒たちは朝早くから授業が始まることに困難を覚えていると述べています。
Leone氏は、「ほとんどの青少年は深刻な問題を抱えています。彼らは非常に遅い睡眠サイクルを示していますが、非常に早起きして授業に出席しなければなりません。遅めの睡眠サイクルと早い始業時間という2つの力により、子どもたちの平日の睡眠時間は推奨される時間より短くなっています」と主張。短い睡眠時間に加え、平日と休日との間で生活サイクルが違うことによる社会的な時差によって、青少年は苦しめられているとのこと。
その一方で、若者であっても早起きが得意な人々もいるとLeone氏は指摘しており、一般的に「朝型の生徒の方が、夜型の生徒よりも成績がいい」ことがわかっているとのこと。早起きの生徒の方が成績がいい理由について、Leone氏は朝型の人が優れた認知能力を持っている可能性を認めつつも、「学校が始まる時間が朝早いため、結果的に朝型の生徒の成績がよくなっている」可能性もあると指摘しています。
そこでLeone氏の研究チームは、学校の授業が「朝授業(7時45分~12時5分)」「昼授業(12時40分~17時)」「夜授業(17時20分~21時40分)」という3つの時間帯に分けられている、ブエノスアイレスの学校に通う生徒たちを被験者として調査を行いました。調査の対象となった学校では本人の睡眠リズムにかかわらず、それぞれの生徒がランダムに各時間帯に割り当てられているそうです。
研究チームは3つの時間帯に通う13歳~14歳のグループと17歳~18歳のグループ、合計で753人の生徒たちにアンケート調査を実施しました。このアンケートで生徒たちが朝型なのか夜型なのか、平日と休日ではどれほど睡眠習慣に違いがあるのかを判定し、学期末の成績を踏まえた分析を行ったとのこと。
「各時間帯に割り当てられる学生はランダムだった」という点から、それぞれの時間帯で朝型・夜型の比率は変わらないことが予想されましたが、実際には「朝授業のグループにおいて、最も朝型の生徒が多い」ということが判明。この結果は、生徒たちが授業の時間帯に合わせて睡眠リズムを変化させたことを示唆しています。
また、昼授業・夜授業を受けている生徒たちでは、13歳~14歳のグループよりも17歳~18歳のグループの方が1時間ほど睡眠リズムが遅くなっていたとのこと。その一方で、朝授業を受けている生徒たちでは、13歳~14歳のグループと17歳~18歳のグループとの間で、数分しか睡眠リズムに違いがなかったそうです。
さらに平日と休日の睡眠リズムにおける変動を測定したところ、朝授業のグループでは13歳~14歳のグループも17歳~18歳のグループも、平均して4時間ほど休日の方が起床時間が遅いことが判明。さらに17歳~18歳のグループでは、昼授業のグループでもわずかに平日と休日の睡眠リズムに時差があったとのことで、朝に授業を行うことによる「社会的時差ぼけ」がいかに大きいかがわかります。
さらに、学校の成績・授業の時間帯・睡眠リズムを比較したところ、従来の研究通り朝授業のグループでは朝型ではない生徒の成績が低いことがわかりました。授業の時間帯と睡眠リズムの不一致が成績に及ぼす程度は特に数学で大きく、他の教科よりも2倍ほど成績に変化が出たそうです。
その一方で、生徒の年齢や各時間帯によっても睡眠リズムと成績の違いは変動しており、結果は非常に複雑だったと研究チームは指摘。朝型・夜型の差が少ない13歳~14歳のグループでは、昼授業のグループにおいて睡眠リズムの違いによる成績の変動はみられませんでしたが、朝型・夜型の違いが顕著になる17歳~18歳のグループでは、昼授業のグループにおいて朝型の生徒が国語で高い成績を収めたとのこと。夜授業のグループでは、朝型・夜型の違いで成績に変動は見られなかったと研究チームは述べています。
今回の研究結果は、「睡眠リズムが授業の時間帯と合致している場合、生徒は高いパフォーマンスを発揮できる」という以前の研究結果を裏付けている一方で、「夜型の生徒が朝型の生徒より高いパフォーマンスを発揮する時間帯が存在していない」ということも示しています。この結果について研究チームは、「朝型の人が夜型の人より認知的に優れている」という仮説と、「朝型の人は社会的な時差ぼけに対処する能力に優れている」という仮説が考えられると指摘。
また、IT系ニュースサイトのArs Technicaは、「今回の研究に参加した人数は、社会科学の実験としては十分な人数でしたが、生徒を3つの授業時間帯と2つの年齢グループに分けたため、各グループの人数が少なくなっています」と指摘。サンプル数が少なくなったため、今回明らかになった研究結果が統計的なノイズ(変動)や疑わしい結果の影響を受けている可能性があると示唆しました。それでも、「この研究は、要求される時間帯に合わせて生徒がある程度睡眠リズムを調整できることを示していますが、調整に苦労している生徒がいることも明らかです」と、Ars Technicaは述べています。
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