カーボンナノチューブの「トロイの木馬」で動脈硬化を治療する技術が開発される
by StoryTolley
血管の壁にコレステロールなどのプラーク(かたまり)が蓄積した結果、血管が硬くなって弾力を失い、血管が詰まってしまう動脈硬化を「薬剤をセットしたカーボンナノチューブを体内に送り込むことで、動脈内部にこびりついたプラークを除去する」という方法で治療できると、ミシガン州立大学とスタンフォード大学の研究者が発表しました。
Pro-efferocytic nanoparticles are specifically taken up by lesional macrophages and prevent atherosclerosis | Nature Nanotechnology
https://www.nature.com/articles/s41565-019-0619-3
Nanoparticle chomps away plaques that cause heart attacks | MSUToday | Michigan State University
https://msutoday.msu.edu/news/2020/nanoparticle-chomps-away-plaques-that-cause-heart-attacks/
動脈硬化にはさまざまなタイプがあり、その内の1つであるアテローム性動脈硬化は動脈の内壁に粥状(アテローム性)のプラークが発生することで動脈が硬化する病態です。このアテローム性のプラークは、酸化した悪玉コレステロールが「マクロファージ」と呼ばれる体内の掃除役を務める白血球に取り込まれ、動脈内壁に蓄積することで形成されます。プラーク形成の詳しい仕組みははっきりとわかっていないそうですが、悪玉コレステロールの血中濃度が高かったり、糖尿病や高血圧を抱えていたりするとアテローム性動脈硬化が進行しやすいことはわかっています。
by National Heart Lung and Blood Insitute (NIH)
マクロファージを含む体内の細胞は、物質をやりとりすることで命令や情報をやりとりする「シグナル伝達」を行います。ミシガン州立大学の生物医学工学准教授であるブライアン・スミス氏の率いる研究チームは白血球のシグナル伝達についての研究を行っており、単層のカーボンナノチューブに特定のシグナル伝達を阻害する薬剤を搭載してマウスに注入する実験を行いました。
その結果、マクロファージが再活性化し、プラークと共に血管内壁にこびりついた細胞の残骸を飲み込んで食べることが判明。マクロファージの再活性化と共に、血管内壁のプラークが小さくなることがわかりました。
「薬剤をカーボンナノチューブに搭載して体内に送り込み、動脈硬化の原因となるプラークを取り除く」という仕組みから、スミス氏はこのナノ粒子を「トロイの木馬」と表現しています。
by Cazz
スミス氏は「カーボンナノチューブに搭載した薬剤でマクロファージを刺激することで、死んだ細胞や死にかけている細胞を選択的に食べることがわかりました。この技術は、アテローム性動脈硬化以外にもさまざまな治療に応用できる可能性があります」と述べ、「将来的には大型の動物や人体組織検査を用いて臨床実験を行うことで、副作用を最小限に抑えながら、さまざまな心臓発作のリスクを軽減できるかもしれません」と語りました。
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