人間や動物の毛は太ければ太いほど強度があるわけではない

by Alina Kovalchuk

人間の髪の毛は非常に細いものの非常に丈夫であり、1本の髪の毛で100g以上の重さを支えられるそうです。明治初期に行われた東本願寺の再建工事にあたっては、巨大な木材を運搬するために通常の綱よりも強度のある綱が必要とされ、女性信者たちが寄進した髪の毛と麻をよって作った毛綱を使用したことが知られています。カリフォルニア大学の研究チームが、人間を含んださまざまな動物の毛の強度を調べる実験を行い、「毛が太いほど強度があるわけではない」ことを発見しました。

On the Strength of Hair across Species: Matter
https://www.cell.com/matter/fulltext/S2590-2385(19)30234-6

Study of elephant, capybara, human hair finds that thicker hair isn't always stronger -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/12/191211115532.htm

研究の筆頭著者であり、カリフォルニア大学のナノ工学研究者であるWen Yang氏は、「天然素材は数千年におよぶ進化を遂げており、非常によく発達しています」とコメント。天然素材をヒントにして高機能な合成素材を開発するヒントとして、人間を含むさまざまな動物の毛の強度を調べる実験を行ったとのこと。

人間の頭髪は非常に強い強度を持っていることが知られており、同じ重さの鋼鉄と同等の強度ともいわれています。髪の毛が非常に強い素材である理由は、非常に小さな繊維が化学結合でつながった内部をキューティクルと呼ばれる外層が覆う、階層構造になっている点にあるそうです。この構造により、タンパク質でできた髪の毛が強い力に耐えられるようになっています。

by Tim Mossholder

Yang氏の研究チームは、ほかの動物の毛も同様の特性を持っているのかどうかを調べるため、人間に加えてクマ、イノシシ、ウマ、カピバラ、ペッカリー、キリン、ゾウという8種類の動物から毛のサンプルを採集して、強度を確かめる実験を行いました。それぞれの動物の毛の太さはさまざまで、人間の髪の毛は直径80マイクロメートル(0.08ミリメートル)だったのに対し、ゾウやキリンの毛は直径350マイクロメートルを超えていました。

研究チームは毛を機械に結び付け、毛がちぎれるまで徐々に引っぱっていくという方法で単位面積あたりの強さを確かめました。すると、「太い方が単位面積あたりの強さがあるのではないか」という直感に反して、細い毛の方が太い毛よりも強い力に耐えることができることが判明。これは同じ動物の毛においても同様で、人間の子どもの細い髪の毛は、大人の太い髪の毛よりも単位面積あたりで強い力に耐えられたとのこと。

毛がちぎれた後の断面を走査型電子顕微鏡で調査した結果、細い毛と太い毛ではちぎれた断面に違いがあったことがわかりました。イノシシやキリン、ゾウなどの直径200マイクロメートルを超える毛は、バナナを2つに割った時のように、比較的滑らかな断面をしていました。その一方で、人間やウマ、クマなどの直径200マイクロメートルより細い毛は、木の枝を無理やり折った時のように、不揃いでギザギザな断面をしていたと研究チームは述べています。

これは、細い毛においては引っぱる力によって内部に小さなジグザグの亀裂が形成されるためだとのこと。「これらの亀裂は伝播しますが、一部の生物材料ではそれぞれの小さな亀裂がお互いにぶつかるまで破断しません」と、Yang氏は指摘しています。かかった力によって一気に全体が破壊されるよりも、小さな亀裂がたくさん発生した方が強い力に耐えられるため、結果として細い毛の方が単位面積あたりの強さが高くなるそうです。

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研究の共著者であるRobert Ritchie氏は、破断に至るまでのひずみが小さい金属線のような脆性材料も、動物の毛と同様に細い物体の方が引っぱられた時の単位面積あたりの強さがあると指摘。動物の毛は力をかけられた時に変形しやすく、脆性材料とはいえないため、毛が脆性材料と同様の特性を持っていることは「少し驚きです」と、Ritchie氏はコメントしています。

今回の結果は研究チームがよりよい合成素材を開発する上で役立つとみられていますが、記事作成時点の技術では、髪の毛のように洗練された階層構造を持つ素材を開発するのは困難だそうです。「合成素材の開発には、非常に細い材料を製造する方法から、自然な髪のように各層間の結合を再現する方法まで、解決策のない多くの課題があります。しかし、髪のような階層構造を持つ合成素材を開発できれば、救助用ロープなどに使用できます」と、Yang氏は述べました。