人が犬の表情を理解できるかどうかは「文化圏」で変わる、理解力が高い文化圏とは?
by Fran__
人間が犬を飼い始めるようになったのは数万年以上も昔だとされており、「犬を飼いやすくなる遺伝子」を持つ人もいるといわれています。新たな研究では、「犬の感情を理解できるかどうかは、飼い主が住む文化圏の影響を強く受けている」ということが判明しました。
The ability to recognize dog emotions depends on the cultural milieu in which we grow up | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-019-52938-4
Your Ability to Recognise Dog Emotions Says Something About Where You Come From
https://www.sciencealert.com/your-ability-to-understand-dogs-might-depend-on-where-you-grew-up
犬は人間の言葉や表情などを認識し、人々の感情を読み取ることができるとされており、時には飼い主の不安を感じ取って苦痛を解消するために行動するともいわれています。その一方で、「人間がどれほど犬の感情を理解できるのか」という点については、あまり研究が進んでいなかったとのこと。
人間が犬の感情を読み取る能力についてはいくつかの仮説が提唱されており、一説では「犬と人間は一緒に過ごすことにより、相互の感情を理解する能力を育む」ともいわれています。この説に基づけば、犬の飼い主は犬を飼っていない人よりも犬の感情を読むことが上手く、個人間で犬の感情を読む能力には大きな開きがあることになります。
しかし、この説に反するいくつかの研究結果もあるそうです。たとえば犬に不慣れな人であっても実際には犬の感情を読むのが上手いことを示した研究や、犬の飼い主と犬を飼っていない人の間で犬の感情を読み取る能力に差がないとする研究結果も報告されています。
by huoadg5888
そこで、ドイツのフリードリヒ・シラー大学イェーナやライプツィヒ大学の研究チームは、犬の表情を認識して感情を読み取る能力についての研究を行いました。今回の研究では、「犬を飼った経験があるかどうか」「大人であるか子どもであるか」といった要素に加え、「その人が所属する文化的環境」についても考慮したとのこと。
研究の参加者は、「ヨーロッパ在住でイスラム文化圏出身でなく、犬を飼っている(EGO)」「ヨーロッパ在住でイスラム文化圏出身ではないが、犬を飼っていない(EGo)」「イスラム文化圏出身だが直近の3年間はヨーロッパに住んでおり、犬を飼っていない(Ego)」「イスラム文化圏(モロッコ)出身・在住で、犬を飼っていない(ego)」という4つのグループから集められました。
グループの略語について、大文字の「E」は居住する文化圏が犬に対し好意的であることを示し、小文字の「e」は居住する文化圏が犬に対し好意的でないことを示します。また、「G/g」は出身となる文化圏の犬に対する態度を示しており、「O/o」はその人が犬を飼っているかどうかを示しています。一般的にヨーロッパ文化圏は犬を飼う人が多く、犬への態度が好意的ですが、イスラム文化圏では犬を飼う習慣が乏しく、犬への態度が比較的後ろ向きであるとのこと。
グループの内訳は、「EGO」グループと「EGo」グループでそれぞれ大人が24人、「Ego」グループは大人が18人、「ego」グループは大人が23人でした。また、子どもについても研究するため、「EGO」グループの子ども23人と、「EGo」グループの子ども31人、「ego」グループの子ども23人を、それぞれ5歳~6歳の範囲で集めました。
by Bessi
各参加者は犬、チンパンジー、人間の顔写真をそれぞれ20枚ずつ見せられ、それぞれの顔写真に写る対象が持つ感情を、「怒り」「恐れ」「幸福」「普通」「悲しみ」のどれかに分類するよう求められました。それぞれの写真は本人または飼い主などの所有者によって感情のタグ付けが行われており、研究チームは参加者がどれほど正しく感情を分類できたのかを分析しました。
成人の各グループによる感情読み取りテストの結果が以下。左からチンパンジー、犬、人間の順になっており、白い棒グラフが「EGO」グループ、薄い灰色の棒グラフが「EGo」グループ、濃い灰色が「Ego」グループ、黒色が「ego」グループとなっています。チンパンジーの感情評価は軒並み正答率が低いものの、犬の感情評価については、「EGO」と「EGo」の両グループが高い正答率を記録していることがわかります。
この結果から研究チームは、犬の飼い主でなくても犬に好意的な文化で育った人々は、犬の感情を優れた精度で認識できることを発見しました。マックス・プランク研究所の進化人類学者であるFederica Amici氏は、「犬の感情を認識する能力に影響するのは直接的な犬との接触経験ではなく、人間が成長する文化的環境であると示唆した点で、今回の結果は注目に値します」と述べています。
また、大人全体において、それぞれの感情をどれほど正しく認識したのかを示した図が以下。特に犬の「怒り」と「幸福」の感情について、人間の大人が正しく認識できることが示されており、特に「怒り」については人間の顔写真より正答率が高くなっています。
子どもたちにおける感情別の正答率は、以下のようになっています。研究チームによると、子どもは犬を飼った経験や文化的背景に関係なく、犬の感情を識別する能力が低かったとのこと。この点は、犬の感情を読み取る能力が文化の中で得られる経験に支えられて成長することを示唆していますが、子どもでも「怒り」の感情だけは高い精度で識別できていることがわかります。
研究チームは「ego」グループに分類されたモロッコの子どもたちでさえ、「怒り」の感情を正しく認識できる点について、「犬の怒りは『危険な状況』を意味する」点が影響している可能性があると指摘。「怒りを認識する能力には明らかに適応性があります。危険な状況についての重要な情報を伝達することは、即座な身体的利益につながります」と研究チームは述べ、ほかの感情と違って怒りの認識が生得的なものである可能性を示唆しました。
今回の研究は参加人数が少ない小規模なものであり、使用された犬はいずれもジャーマン・シェパード・ドッグに似た顔をしている点や、2つの文化グループしか比較していないといった制限があります。研究結果を確かめるにはさらなる研究が必要ですが、今回の結果は犬の感情を識別する能力が文化的影響を受けている点を示唆する重要なものだと研究チームは考えています。
マックス・プランク研究所の比較心理学者であるJuliane Bräuer氏は、「どの文化的側面が犬の感情を認識するのかを正確に判断する将来の研究には価値があると思います。こうした研究を続けることで、感情認識における異文化間の違いについて理解を深めることが可能です」と述べました。
by Pitsch
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