計算中の少年と少女の脳には有意な差は存在しないことが明らかに

by Wavebreakmedia

一部の教育現場では、「数学や科学などの分野は女性より男性の方が向いている」という先入観が存在していますが、計算中の子どもの脳を詳細に調べた研究により、ステレオタイプは誤りである可能性が高いことが判明しました。

Gender similarities in the brain during mathematics development | npj Science of Learning
https://www.nature.com/articles/s41539-019-0057-x

Study Finds Brains of Girls and Boys Are Similar, Producing Equal Math Ability
https://www.cmu.edu/news/stories/archives/2019/november/girls-boys-brains-produce-equal-math-ability.html

カーネギーメロン大学で認知科学を研究しているジェシカ・カントロン氏らの研究グループは、科学・技術・工学・数学の教育分野の総称であるSTEM教育における性差について検証するため、子どもの脳を核磁気共鳴画像法(MRI)で調べる実験を行いました。

カントロン氏らは、合計104人の子どもたちを3つのグループに分けて実験を行いました。1つ目の実験では、4～10歳の男の子11人・女の子15人の合計26人に「算数を含む映像とそうでない映像」で構成された合計20.3分の子ども向け教育ビデオを見せました。そして、実験に参加している子どもの脳をMRIで調べて、加減の計算や数字の処理に関連しているとされている頭頂間溝(IPS)という部位の働きを分析しました。その結果が以下の図で、左のグラフが脳の左側のIPS、右のグラフが脳の右側のIPSにおける活動の活発さを表しています。また、各グラフの左側(Number)が算数の映像を、右側(Non-Number)が算数ではない映像を見ている際のものです。男の子分析結果を表す青い点と、女の子の分析結果を表す赤い点を見比べると、ほとんど違いがないことが分かります。

2つ目の実験では同様に、4～8歳の男の子18人・女の子17人の合計35人に11.6分の算数の子ども向け教育ビデオを見せました。その結果が以下の図で、やはり有意な違いはありませんでした。

3つ目の実験では、3～5歳の男の子20人・女の子23人の合計43人に「音声なしの子ども向けアニメと、数を数えたりアルファベットを読み上げたりする音声」の組み合わせの映像を19.2分見せました。その結果が以下の図で、各グラフの左側(Counting)が数を数えている際の、右側(Alphabet)がアルファベットを読み上げている際のものです。やはり違いはほとんどみられません。

実験では、子どもだけでなく男性63人・女性25人の合計88人の大人も参加させて脳をMRIで分析し、その結果を子どもと比べることで子どもの脳の発達の度合を調べましたが、男の子と女の子の脳には違いが見られなかったとのことです。

この結果について、論文の共著者であるアリッサ・カーシー氏は「今回の実験により、男の子と女の子が脳を同じように使用して数字を処理していることがわかりました」と述べました。また、カントロン氏は「これまでの研究では、男の子の親は子どもに空間認知を育む遊びをさせる傾向にあることが明らかになっており、多くの学校の先生は算数の授業中には(PDFファイル)男の子に優先的に時間を割いていることが分かっています。このように、後天的に獲得された性差が男女の小さな差を雪だるま式に拡大させて、大人になるころには大きな違いとなって表れるのではないでしょうか」と指摘し、男女でSTEM教育の適正に差があるという仮説に対し否定的な見方を示しました。