火山の力を借りて熟成させるチーズが700個も盗まれるほどの人気に、その秘密とは?
現存する世界最古のチーズは約3300年前のものであり、人類によるチーズ作りは長い歴史を持っています。チーズは牛乳のほかにロバのミルクが使われることもあるほか、熟成にダニやウジ虫が利用されるなど、その製造方法はさまざまです。フランスでは火山の力をフルに利用した伝統的なチーズもあるとのことで、旅行オンラインマガジンのAtlas Obscuraがその秘密に迫っています。
How Long-Ago Lava Flows Created a Unique French Cheese - Gastro Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/saint-nectaire-cheese
This Cheese’s Secret Ingredient Comes From Caves on Volcanic Hillsides | Smart News | Smithsonian
https://www.smithsonianmag.com/smart-news/cheeses-secret-ingredient-comes-caves-volcanic-hillsides-180973623/
フランスで作られるチーズ「サン=ネクテール」は「香りの後の蜜」という意味を持ち、フランス・オーヴェルニュ地方でのみ作られる5つのチーズのうち1つです。AOP認証を持つサン=ネクテールはオーヴェルニュの69都市で、一定の方法で作られています。この方法とは、火山性土で育った野生の草花を食べた牛から絞ったミルクを原料とし、数カ月間ライ麦の上でねかされた後に、「理想的な温度・湿度・気圧のもと」熟成されるというもの。この理想的な環境を人工的に作り出す人もいますが、何千年も昔から存在する火山灰や溶岩でできた洞窟を利用するという、昔ながらの方法をつらぬく人もいます。
チーズと貯蔵庫の関係は、人工的な貯蔵庫か天然の貯蔵庫かで微妙に異なります。人工的な貯蔵庫の場合、チーズにあわせて気圧・温度・湿度を調整しますが、天然の貯蔵庫の場合、環境に応じてチーズの方を調整します。例えば、湿度が低い場所であればチーズを塩水で何度か洗って水分を加える必要があるとのこと。ただし、多くの場合、洞窟にはチーズを熟成するのに最適な環境が備わっているため、チーズ農家は「私たちは何もする必要がありません」と語っています。
このような天然の貯蔵室は1400年代ごろからチーズ作りに使われてきたといわれています。チーズ農家の一人であるセバスチャン・ギヨーム氏は19世紀に作られた貯蔵室を、2019年時点でも使用しているとのこと。ギヨーム氏は自分で搾乳を行わず地元の農家からチーズのホイールを購入し、洞窟で熟成させるという方法をとっています。人工のチーズ貯蔵室は定期的に水をまき洗う必要がありますが、洞窟ではそのようなことを行わなくていいため、「私たちは幸運です」とギヨーム氏は述べています。
洞窟でのチーズ熟成にとって、微生物の存在は重要なカギです。微生物は若いチーズに含まれる脂肪やタンパク質の大きな分子を分解し、チーズに豊かな香りやフレーバーを与える小さな分子を残します。天然の貯蔵室には、それぞれ異なる微生物が存在し、風味作りの重要な役割を果たしているとのこと。この差は大きく、同じ生産者から得たチーズを使っても、貯蔵庫が異なれば、たとえ場所的には10メートルしか離れていない貯蔵室であっても、風味は異なるものになります。
一方で、食品規制の問題もあり、衛生的な問題から当局による規制も懸念されています。2019年時点で、チーズ作りのために継承され続けてきた洞窟は当局から認められていますが、一度継承が途切れてしまうと、その貯蔵室は二度とチーズ熟成のために使えなくなるそうです。またサン=ネクテールの人気は極めて高く、フランスのメディアThe Localは、2018年に700ブロックものチーズが盗まれ、チーズの闇市場が大きくなりつつあるとも報じています。
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