AIが地球から見た太陽と火星の軌道データから「地動説」を再発見
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16世紀に活躍した天文学者であるニコラウス・コペルニクスは、当時の主流であった天動説を覆す地動説を唱えたことで知られています。研究者らがAIに「地球から観測した太陽と火星の軌道データ」を教えたところ、AIがコペルニクスのように「太陽を中心に惑星が周回していること」を発見したと判明しました。
AI Copernicus ‘discovers’ that Earth orbits the Sun
https://www.nature.com/articles/d41586-019-03332-7
スイスのチューリッヒ工科大学の物理学者であるRenato Renner氏らの研究チームは、物理学者がさまざまな現象を簡潔な数式で表すように、大規模なデータセットを基本的な数式に分解するニューラルネットワークの設計を目指していました。
従来のニューラルネットワークでは、画像や音声などのオブジェクトを認識するために膨大なデータセットをトレーニングします。その結果、ニューラルネットワークは「猫」や「ドラムの音」といった特定のオブジェクトに関するさまざまな特徴を見つけ出し、対象となるオブジェクトの認識が可能となります。
ところが、ニューラルネットワークがオブジェクトの特徴を認識して情報を抽出するプロセスは、簡単に解釈できるものではありません。ニューラルネットワークがオブジェクトを認識する方法はブラックボックスのようなものであり、物理学者が導き出す一般的な数式や法則のようには解釈できないとのこと。
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そこでRenner氏らの研究チームは、2つのニューラルネットワークを用いたAIを開発しました。このAIでは、まず1つ目のニューラルネットワークが、典型的なAIと同様にデータセットを学習して特徴を認識します。続いて、1つ目のニューラルネットワークが学習した経験の「圧縮された情報」を2つ目のニューラルネットワークに渡し、2つ目のニューラルネットワークがその限られた情報から新たな予測を導き出すそうです。この過程についてRenner氏は、「教師が知識を生徒に教えるようなもの」と表現しています。
研究チームは開発したAIをテストするため、地球から見た火星と太陽の動きに関するデータを与え、どのような結果が出るのかを調べました。その結果、研究チームが開発したAIは、かつてコペルニクスが発表した「太陽を中心とした火星の軌道」の計算式を再発見したとのこと。研究に参加したトロント大学のAI研究者であるMario Krenn氏はコペルニクスの天文学における発見について、「科学の歴史における最も重要なパラダイムの1つ」であると述べています。
Renner氏は今回の発見について、確かにAIが方程式を導き出したものの、この方程式を解釈して実際にどのような現象と関係しているのかを理解するには、人間の目が必要であると強調しています。研究チームはデータから物理法則を導き出すAIを発展させ、量子力学の分野における矛盾を解決するのに役立てたいと考えているそうです。コロンビア大学のロボット工学者であるHod Lipson氏は今回の結果を受けて、「これらの技術は物理学の分野を超え、複雑さを増す現象を理解する唯一の希望です」とコメントしました。
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