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人工知能の発達はどのように科学的研究を変えていくのか?

by geralt

人工知能(AI)は画像認識や文章生成など、既に広い分野で利用されている技術です。そんなAIを科学的研究の分野に応用することで、どのように科学的研究が変わっていくのかについて、サイエンスジャーナリストのダン・フォーク氏がまとめています。

How Artificial Intelligence Is Changing Science | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/how-artificial-intelligence-is-changing-science-20190311/

フォーク氏は「現代の天文学や物理学の実験によって得られたデータの量に、人間や人間のチームは追いつくことができないでしょう」と指摘しており、日々大量に収集されるデータを人間の手だけで分析するのは記事作成時点でも困難だと述べています。近年では科学研究に用いられるデータの量が飛躍的に増加しており、たとえば2020年から観測が開始される電波望遠鏡のスクエア・キロメートル・アレイは、毎年インターネット全体のデータ量と同じくらいの観測データを生み出すそうです。

この科学研究に使用されるデータの氾濫により、多くの科学者がAIに助けの目を向けているとフォーク氏は主張。AIシステムはデータの山を素早く分析し、異常な兆候を察知し、人間では捉えることのできなかったパターンを認識できるとのこと。以前から科学的研究にコンピューターは利用されてきましたが、一部の科学者らはAIが従来とは違う、新たな科学的研究のアプローチであると考えています。

たとえば生成的モデリングとして知られるAI分析のアプローチは、事前に収集されたデータのみに基づいてもっとも可能性の高い理論を推定することが可能。チューリッヒ工科大学に所属していた天体物理学者のケビン・シャウィンスキー氏は、「AIを用いた生成的モデリングのアプローチは、従来の観察やシミュレーションに基づいた手法の間に位置する第3のアプローチです」と主張しています。AIが科学的研究に与える影響は今後も増大していくとみられており、フェルミ国立加速器研究所の宇宙物理学者でAIを使った研究を行っているブライアン・ノード氏は、人間の科学者が行っている作業のうちAIで自動化できないものはないのではないかと疑っています。「これは寒気のする考えです」と、ノード氏は述べました。

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最もよく知られている生成的モデリング手法が、敵対的生成ネットワーク(GAN)と呼ばれるものです。これは2つの競合するニューラルネットワークを用いたシステムであり、一方が生成した画像などをもう一方が本物か偽物かどうか判断するというシステムを繰り返すことで、生成物の精度が向上していきます。

近年ではGANを用いてこの世に存在しない人物を生成できるネットサービスなども登場しており、AIが生み出す画像のクオリティを実感することが可能です。

この世界に存在しない人物の画像をワンタッチで簡単に生成できる「This person does not exist」 - GIGAZINE


シャウィンスキー氏らの研究チームは2018年12月、銀河が進化するにつれて発生する物理的変化について、生成的モデリングを用いて調査した(PDFファイル)論文を発表しました。この研究に用いられたのはGANではありませんでしたが、それに類似したAIシステムであり、星を形成する速度の急速な減少といった要素が銀河系の密度の増加とどのように関連しているのかを調査したとのこと。

AIによる科学的研究に積極的なシャウィンスキー氏にとって今回の研究は、恒星や銀河系が成長するプロセスについての情報が、観測データのみからどれほど得られるのかといった点が大きな焦点だったそうです。「天体物理学に関する全ての情報を消去したとします。観測データのみを使用して、一体どれほどの天体物理学に関する情報を再発見できるでしょうか?」と、シャウィンスキー氏は問いかけます。

銀河系に関する観測データを基にAIが学習し、密度を変えたさまざまな銀河をAIに生成させることにより、科学者らは銀河系の色が密度によって変化することを知ることが可能です。また、一体なぜ銀河系の密度が変わることで色が変化するのかといった疑問についても、AIが生成したモデルにおいての変数を設定することで、「銀河系の密度が高くなって色が赤っぽくなるのは、星形成の速度が減少しているからだ」と知ることができるとシャウィンスキー氏は述べました。

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このアプローチは一見すると従来のコンピューターシミュレーションと似ているように見えますが、シャウィンスキー氏によるとシミュレーションは本質的に仮定主導型である一方、生成的モデリングを用いたアプローチは何も仮定を持たずにスタートしているとのこと。「これは完全に自動化された科学ではありませんが、少なくとも今回の研究により、科学的研究の一部を自動化するツールが構築できることが示されました」と、シャウィンスキー氏は主張しています。

シャウィンスキー氏の主張に対しては賛否あり、研究においてAIを活用しているニューヨーク大学の宇宙学者であるデヴィッド・ホッグ氏は、「AIは第3の科学的研究のアプローチだとは思いません」と述べています。あくまでもAIを使うホッグ氏の研究は、科学的研究における観察の延長線上にあると考えているとのこと。


概念的に新しいものであろうとなかろうと、AIは天文学研究において大きな役割を果たすようになっています。ハイデルベルク研究所の物理学者であるカイ・ポルスタラー氏の研究チームは、骨の折れる作業であった銀河系のデータセットから赤方偏移を抽出する作業に、機械学習アルゴリズムを活用しているとのこと。ポルスタラー氏はこの新しいAIベースのシステムを、大量のデータを不満一つこぼさずに処理する「勤勉なアシスタント」であるとみなしています。AIは面倒でウンザリする作業を自動化することが可能であり、人間は「クールで興味深い科学的研究に打ち込むことができます」と、ポルスタラー氏は述べました。

AI主導のデータ分析が進んでいるのは天文学の分野に限らず、量子物理学の分野では波動関数を表現するためにニューラルネットワークが使用されるなどしています。その一方で、AIを用いた研究でたびたび話題になるのが、AIが生成した結果はその過程がブラックボックスであるという点です。

フェルミ国立加速器研究所のノード氏も、この点が研究における透明性の欠如につながるかもしれないと懸念していますが、中には透明性の欠如が必ずしも問題であるとは考えていない研究者もいます。フランスのサクレー研究所の研究者であるレンカ・ズデボロヴァ氏は、人間の直感もしばしば不可解なものであると指摘。人々はネコの写真を見れば「ネコだ」と認識できますが、なぜそう認識できたのかを明確に説明することは困難です。「あなたの脳は、ある意味でブラックボックスといえます」と、スデボロヴァ氏は語っています。

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多くの科学的研究にAIが活用され、従来の作業を自動化する動きが進展することは間違いありませんが、それでも「科学には創造性が必要である」という主張は根強いものがあります。ポスルタラー氏は「理論を考え、推論するには創造性が必要です」と主張しており、創造性をコンピューターに付与することは難しいと考えています。

シャウィンスキー氏はAIを科学的研究に生かすスタートアップModulosを創設し、チューリッヒ工科大学を離れています。AIの可能性に限界があるのかどうかは不明ですが、今後も継続してAIの可能性を追求していくつもりだそうです。

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in メモ,   サイエンス, Posted by log1h_ik

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