X線をナノスケールのICチップに照射して非破壊的に内部を解析・調査する技術が登場
X線を活用すれば、レントゲン撮影で体の中を見ることができるだけでなく、1300年前の古文書の消えた文字やマザーボードに仕込まれたスパイチップまで透視することができます。しかし、最新のX線技術ではなんと、ナノスケールのICチップの構造まで解析してリバースエンジニアリングが可能だとのことです。
Three-dimensional imaging of integrated circuits with macro- to nanoscale zoom | Nature Electronics
https://www.nature.com/articles/s41928-019-0309-z
X Ray Tech Lays Chip Secrets Bare IEEE Spectrum - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/nanoclast/semiconductors/design/xray-tech-lays-chip-secrets-bare
「半導体集積回路のトランジスタ数は2年ごとに2倍になる」というムーアの法則は、近年に入り終わりを迎えたといわれていますが、ペースは落ちたもののCPUの構造は依然として微細化・高密度化を続けています。
by Colin Behrens
そのため、ICチップをリバースエンジニアリングするにはナノメートル単位のパーツを1つずつ取り外し、光学顕微鏡から電子顕微鏡法までを駆使して層状の回路をイメージングするなど、途方もない労力と時間がかかるとのこと。また、ICチップは小さすぎて再度組み立てることができないので、もしリバースエンジニアリングに成功しても貴重なサンプルは失われてしまいます。
そんな中、チューリッヒ工科大学で物理学教授を務めるガブリエル・エプリ氏らの研究チームは、「X線を使用してICチップの構造を解析する新技術を開発した」と論文の中で報告しました。「ptychographic X-ray laminography(タイコグラフィックX線断層撮影)」と名付けられたこの新技術を使うと、シンクロトロンから照射されたX線をICチップに当てることで、非破壊的にリバースエンジニアリングすることができるとのことです。
実は、エプリ氏は2017年にも同様の技術である「X-ray ptychography(X線タイコグラフィー)」を開発しています。しかし、技術的制約により最新のICチップの詳細な構造までは解明することができませんでした。
エプリ氏らを特に悩ませたのは、「チップに真正面からX線を照射すると、X線が吸収されてしまって有用な回析パターンが得られない」という問題です。このため、過去に開発したX線タイコグラフィーでは、10マイクロメートルの柱を使ってさまざまな角度からX線を照射することで、X線が散乱する様子からICチップの構造を推測する方法が取られました。
一方、今回の新技術ではX線を斜め61度の角度から照射し、Xの吸収により失われてしまう情報と正確性のバランスを取るという手法により従来の問題を解決しました。新技術によるICチップのスキャンはまず、低解像度モードで1辺が300マイクロメートル×300マイクロメートルの領域を30時間かけてスキャンします。そして、ICチップの心臓部を発見したら、今度は直径40マイクロメートルの領域を高解像度モードで60時間かけて解析します。X線は波長が非常に短く、電磁波よりはむしろ光子のような性格を帯びるため、可視光線の観測に使うようなレンズではなくフォトンカウンティングカメラという特殊なカメラが使われるとのこと。
以下の画像はタイコグラフィックX線断層撮影によるICチップの解析のイメージで、赤枠の部分が300マイクロメートル×300マイクロメートルの領域、青い丸が直径40マイクロメートルの領域を表しています。
こうして得られたデータを元に3Dモデルを作成することで、16nmノードサイズのチップの回路の構造を識別することに成功したとのこと。
この技術を活用すれば、製造したICチップが設計どおりの構造をしているか検査することができるだけでなく、未知の構造を持ったICチップのリバースエンジニアリングが可能になります。
エプリ氏は「現状ではICチップを回析するのに合計で90時間かかりますが、スウェーデンのMAX IV研究所などにあるような最新のシンクロトロンから十分な流量のX線を照射することができれば、近い内に1時間未満にまで検査時間を短縮できるでしょう」と述べて、将来的には格段に迅速な解析を行うことが可能になるとの見方を示しました。
また、エプリ氏は「既にアメリカの国家安全保障当局から打診を受けています」と話し、工業分野だけでなくスパイチップの検出など、安全保障分野での活用も視野に入れていることを明かしました。
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