父親になることで脳の構造や活動が劇的に変化するという研究結果

女性の脳は妊娠や出産によって大きく変化することが知られています。一方で、父親は妊娠そのものを経験しないため、脳に同じような変化が起きるのかどうかはあまり詳しく分かっていませんでした。今回、ドイツ・アーヘン工科大学の研究チームが行った新たな研究により、父親になった男性の脳でも出産後の数週間から数カ月にかけて構造や活動が変化する可能性が示されました。
The paternal brain: longitudinal insights into structural and functional plasticity and attachment over 24 weeks postpartum | Translational Psychiatry
https://www.nature.com/articles/s41398-026-04082-7
Fatherhood Dramatically Rewires Your Brain, Scans Reveal : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/fatherhood-dramatically-rewires-your-brain-scans-reveal

研究チームは出産後の父親25人を対象に、子どもの誕生後1週間以内、3週後、6週後、9週後、12週後、24週後の合計6回、MRIによる脳スキャンを実施し、「灰白質体積」と「安静時機能的結合」を主に調べました。
灰白質とは神経細胞の細胞体が多く集まる脳の組織で、情報処理に深く関わります。また、安静時機能的結合は特定の作業をしていない状態で脳の領域同士がどのように連動しているかを示す指標です。父親になることで脳の通信パターンがどう変わるのかを調べたわけです。
分析の結果、父親の脳では子どもの誕生後の最初の6週間に大きな変化が見られました。特に頭頂葉、側頭葉、前頭葉、後頭葉など広い範囲で灰白質体積が減少していたとのこと。灰白質体積が減ると聞くと脳が衰えているように感じられますが、必ずしも悪い変化を意味するわけではありません。脳が新しい生活環境に合わせて神経回路を整理し、必要な働きを効率化している可能性があります。
灰白質体積の減少は出産後12週ごろまで続いた後、24週時点では多くの領域で落ち着いていました。一方で、出産後12週以降には前頭葉や小脳など一部の領域で灰白質体積が増加。つまり、父親の脳の体積は単純に「減る」だけではなく、出産後の時期に応じて減少と増加が組み合わさる複雑な変化が起きていたことになります。

研究チームは、初期の灰白質体積の減少が父親としての新しい状況に適応するための再編成を反映し、後期の灰白質体積の増加が育児に必要な能力の微調整に関わっている可能性があると述べています。
機能面でも父親の脳には変化が見られました。研究チームは「デフォルトモードネットワーク」「サリエンスネットワーク」「前頭頭頂ネットワーク」という3つの大きな脳ネットワークに注目しました。デフォルトモードネットワークは自分や他者について考える働き、サリエンスネットワークは重要な刺激を見分ける働き、前頭頭頂ネットワークは注意や意思決定に関わる働きがあるとされています。
出産後の父親では、特に出産後9週までの期間に脳ネットワークのつながり方が大きく変化していました。研究チームによると、脳の働きは感覚処理を中心とした状態から、感情処理や認知処理を強める方向へ移っていたとのこと。泣き声や表情など赤ちゃんからの情報に反応しつつ、世話の優先順位を判断する必要があるため、父親の脳が育児向けの情報処理に組み替わっている可能性があります。

さらに、感情処理に関わる扁桃体の結合にも変化が見られました。扁桃体は恐怖や不安だけでなく、警戒や愛着にも関わる脳領域です。研究では出産後12週までの期間に、扁桃体と帯状皮質、扁桃体と海馬などのつながりが父親の愛着スコアと関連していました。海馬は記憶に関わる領域であり、赤ちゃんとのやり取りを感情を伴う経験として記憶に定着させる働きに関係している可能性があります。
なお、今回の研究の参加者は25人と少なく、父親ではない男性との比較群もありませんでした。また、出産前の脳スキャンが行われていないため、父親になる前後でどれほど変化したのかを直接比べることはできず、さらに参加者のうち3人は初めて父親になったわけではなかったため、過去の育児経験の影響も完全には切り分けられていないとのこと。
それでも研究チームは、出産後6週から9週が父親の脳にとって特に重要な再編成の時期である可能性を示したと述べています。父親の脳は、妊娠に伴う大きな身体変化を経験しなくても、赤ちゃんの誕生後に構造と機能を変えながら育児に適応していくというわけです。
研究チームは「父親の脳で見られた変化の正確な仕組みはまだ不明だ」とした上で、影響を受けた脳領域や変化の時期は、父親としての新しい役割に適応するための神経可塑性を反映している可能性があると述べています。
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