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火炎放射器の熱は薄さわずか1cmの高性能断熱ブランケットで防げるのか?


エアロゲルはゲルに含まれる溶媒を気体に置換した多孔性の物質であり、非常に低密度で断熱性にも優れていることが知られています。中でも二酸化ケイ素からなるシリカエアロゲルは、非常に低い熱伝導率から断熱材としても使われています。そんなシリカエアロゲルを使った断熱材を火炎放射器の炎で熱し、実際にどれほど断熱効果があるのかを試したムービーが公開されています。

Flamethrower vs Aerogel - YouTube


今回のムービーでエアロゲルの断熱性を確かめるのは、科学系YouTuberのデレク・ミュラー氏。背後に立っているのはエアロゲルの専門家であるステファン・シュタイナー博士です。


シュタイナー博士の触っているブランケットは、最も高性能な断熱材である「パイロジェルXTE」。これはガラス繊維のブランケットにシリカエアロゲルを含浸させたもので、他の断熱材よりもはるかに高い断熱性能を誇っているとのこと。


一般的にシリカエアロゲルは非常に軽く、薄く青みがかっているものです。


シリカエアロゲルをナノスケールで見てみると、数十nm単位の穴が無数に空いたスポンジ状の物体であることがわかります。


空気は熱伝導率がとても低いため、無数にあるナノスケールの穴により最大で全体の99.8%が空気で構成されるシリカエアロゲルは非常に高い断熱性能を持つことになります。


ところがシリカエアロゲルの構造そのものはもろいため、このままの形では断熱材として利用することができません。そこでシリカエアロゲルを細かく砕いてから……


ブランケットなどに含浸させることで、高い性能の断熱材を作り出しているとのこと。


パイロジェルXTEの断熱性能チェックに使うのは、ベン・スコフィールド氏が手にしている火炎放射器です。


チェック方法はブランケットの一方から火炎放射器で炎を放射し、その反対側にミュラー氏が立つという、体を張ったもの。


また、サーモカメラのFLIR T1020を使って熱の測定も行います。


テストで用いる火炎放射器の勢いはどれぐらいなのか、チョコレートに対して使用。


溶けるより先に焦げて固まっているような印象で、チョコレートは意外にも数十秒ほどは形状を保っていましたが、やがてどろっと頂点部分が崩れます。


炎の放射を止めても燃え続けました。


ブランケットの裏側に立っているだけでも危険な実験に思えますが……


ミュラー氏はブランケットの裏側に直接手のひらを置き、熱を体感してみるとのこと。


わずか1cmのブランケットを隔てて、火炎放射器を構えたベン氏と、ブランケットに手を添えたミュラー氏。


そしてついにベン氏が炎を放射。


サーモカメラの映像を見ると、確かに熱がブランケットで遮られているのがわかります。


最初よりさらにベン氏が近づきますが、ミュラー氏はまだ手のひらを付けたまま。


「こっちに来てみてください。全然熱を感じません」と言うミュラー氏。


余裕の声音で「ちょっと温かいかも?」と言っているミュラー氏ですが、わずか1cm向こう側では火炎放射器が炎を吹き付けています。


断熱材の力を信じて実験を行ったはずのミュラー氏も、「信じられません!」と言って笑っています。


ブランケットの上から炎が見えているのを指さして笑うミュラー氏。


ミュラー氏が触っている箇所の熱さは、せいぜい摂氏50度ほどですが……


ブランケットの反対側はなんと600度近くにまで熱されています。


火炎放射をやめてしばらくしても、まだブランケットは150度以上の温度だと表示されていました。


しかし、反対側に回ったミュラー氏は、なぜかブランケットを触ることができてしまった模様。


本来であれば100度もする物体に触ればやけどをしてしまいますが、ミュラー氏は平然とブランケットに触れています。ミュラー氏らは第2の実験により、なぜこんなことができるのかも明かしていきます。


第2の実験では、ホットプレートに厚さ1mmのシリカエアロゲルコーティングを施しました。一部、茶色い地が見えているところは比較用にコーティングを行わなかった部分です。


この状態で加熱し、ぐんぐん温度を上げていきます。


測定器は、コーティング済みの部分の表面温度を120度以上であることを示しています。


ミュラー氏はぴったり手をくっつけることができました。


サーモカメラの映像を見てみると、ミュラー氏が130度近い板の上に手を置いているように見えます。


しかし、「熱さは感じるけど130度もないと感じます」とミュラー氏はコメント。


ミュラー氏が手をどかすと、ちょうど手の形に温度が低い部分ができていました。これはミュラー氏の手のひらがエアロゲルコーティングの内部よりも温度が低く、コーティング部分が冷やされたためです。


ちなみに金属板むき出しの部分は180度ほど。コーティング部分を測定した時より多少熱いものの、それほど大きな違いではありません。


試しにコーティングのない部分に水をたらしてみると、当然ながら水は熱されて沸騰します。


一方、コーティング部分にたらされた水は沸騰せず、温度も低いままです。


わずか1mmのコーティングですが、水を簡単に沸騰させるほどの熱を人体にとって無害なレベルまで遮ってしまう模様。


シリカエアロゲルを使った断熱材は超低温でも機能し……


液体窒素で凍らせた断熱材を素手で触ることもできます。


このため、シリカエアロゲルを使った断熱材は超低温の流体を流す設備などで利用可能で……


NASAの宇宙開発にも使用されているとのこと。


身近なものではポケット部分にエアロゲルを用いることで、スマートフォンを入れても凍らないようにするスキージャケットもあるそうです。


なお、火炎放射器とシリカゲルエアロゲル断熱材のブランケットの戦いは……


やがて火炎放射器の燃料切れという幕切れを迎えました。


「エアロゲルの勝ちです」とミュラー氏は述べました。

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in サイエンス,   動画, Posted by log1h_ik

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