年間収益5兆円を超える世界最大級の食肉メーカーを取り巻く「黒い疑惑」とは?
by Jun Seita
ブラジルのサンパウロに本社を置くJBSは、世界最大規模の食肉メーカーとして知られています。JBSは毎日1300万匹もの動物を食肉に加工し、年間収益は500億ドル(約5兆5000億円)にのぼるといわれています。しかし、2017年の収賄事件が報じられたことをきっかけに、JBSはさまざまな「疑惑」を抱えていることが明らかとなりました。イギリスの共同調査ネットワークであるThe Bureauが、JBSをとりまくスキャンダルについてまとめています。
JBS: The Brazilian butchers who took over the world — The Bureau of Investigative Journalism
https://www.thebureauinvestigates.com/stories/2019-07-02/jbs-brazilian-butchers-took-over-the-world
JBSは1953年に、ブラジルの牧畜家であるホセ・バティスタ・ソブリンホが創立した食肉加工メーカーです。JBSという社名は、創立者であるホセ・バティスタ・ソブリンホ(Jose Batista Sobrinho)の頭文字からつけられています。ホセ・バティスタ・ソブリンホの子どもであるジョエスレイ・バティスタと ウェズリー・バティスタがJBSのCEOに就任してから、JBSは積極的にアメリカへ進出し、グローバル市場への参入戦略を採りました。
◆汚職事件
2007年、JBSはアメリカの食品加工企業であるスウィフト・アンド・カンパニーを買収。さらに2008年にはブラジルの食品加工企業であるグルーポ・バーティンを買収し、アメリカ最大の鶏肉加工メーカーであるピルグリムズ・プライドを買収。これによって、JBSは牛肉・豚肉・鶏肉で世界最大規模の加工メーカーに成長しました。
しかし、JBSは急成長を遂げる裏で、ブラジル政府に対して多くの資金を賄賂として投入しました。2017年にブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES)からJBSが不正に融資を受けていたという疑惑が報じられ、捜査が始まりました。その中で、ジョエスレイCEOが、ミシェル・テメル元大統領をはじめとする多くの政治家に賄賂が支払っていたことを証言。ジョエスレイCEOとウェズリーCEOは司法取引として証言を行った際の録音は、ブラジルの大手新聞社によって公表されました。
by Michel Temer
汚職事件の捜査では、テメル元大統領の側近が15万ドル(約1600万円)の現金が詰まったスーツケースを運んでいる映像も発表されました。また、JBSの役員も、候補者を含む政治家1829人に対して総計約2億5000万ドル(約270億円)もの賄賂を支払ったことを証言。ブラジル史上最大の汚職スキャンダルとして世界的に報じられ、JBSの株価は報道が知れ渡った翌日には9%近くも急落し、ブラジルの株式市場に大きな影響を与えました。あまりにも大規模な汚職であったため、報道から2年経ってもスキャンダルについての捜査は続いているそうで、「ブラジルのトランプ」とも呼ばれるジャイール・ボルソナーロ大統領も20万レアル(約510万円)もの選挙資金をJBSから受け取っていたことが報じられています。
◆「汚れた肉」
また、2017年に汚職スキャンダルで捜査のメスが入った時に、JBSが消費期限を過ぎた牛肉を販売したり、食肉の検査が不十分だったり、食肉輸出を偽造したりしていたことも明るみにでました。本来であれば食肉の衛生管理は法律によって厳しく規制されている部分ですが、汚職がはびこるブラジルでは賄賂によって規制を免れるのが当たり前だったとのこと。
by CAFNR
2018年には、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)が「JBSによって加工された牛ひき肉が食中毒の病原菌であるサルモネラによって感染されていた」と公表しています。日本の食品安全委員会の報告によると、このひき肉に使われた牛肉もJBSの関連会社が加工したものでした。また、鶏肉でも同様の事例が報告されていて、JBSの製品を含むブラジル産の肉は世界各国で輸入を禁止する措置がとられています。
ブラジルでの食肉の不正事件について - 厚生労働省
(PDFファイル)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000197142.pdf
また、2019年7月に公開された調査結果によると、サルモネラに汚染された鶏肉が過去2年間にブラジルからヨーロッパに輸出されていたことが判明しました。
◆森林破壊
2017年、JBSは森林伐採が禁じられている土地で経営している牧場主から牛を購入し、ブラジルの環境規制当局から770万ドル(約8億4000万円)の罰金を科されています。環境保護団体は同様の主張を行う報告書を複数発表していますが、JBSはすべて否定しています。
The Bureauが2019年7月に行った調査では、JBSは違法に熱帯雨林が伐採された土地で牛を育てている牧場からまだ牛を購入しているとのこと。The Bureauの記者は実際に禁止地域で放牧されている牛を目撃し、その牧場からの牛がJBSの食肉処理場に配達されていたことや公式の州文書も見たそうです。
by Eduardo Santos
この報道に対してJBSは「JBSが購入した牛の99.9%が社会環境基準を満たしています。サプライチェーン内のすべてのリンクをカバーする新しい手順を実施していて、熱帯雨林を違法に伐採した地域で育てられた牛の購入を停止するよう取り組んでいます」と述べました。
◆奴隷労働
The Guardianと地元メディアの調査により、JBSと契約している農場が従業員を「現代の奴隷制度」のような状況で働かせていたことがわかったそうです。警察の文書によると、農場は「非人道的で品位を落とす状態」であり、避難所・トイレ・飲料水が不十分な状態で生活することを余儀なくされた男性従業員を発見したと報告しています。JBSは警察によって捜査が入った直後に問題視された農場との契約を解除し、「ブラジル政府のリストにあるように、奴隷労働に関連する農場から牛肉を購入しません」と宣言しています。
◆価格協定
2018年、アメリカ最大級の食品販売業者であるシスコとUSフーズは、JBSをはじめとする大手食肉生産者が卸売り価格を引き上げるために鶏肉の供給を意図的にストップしたと主張しました。また、2019年4月にはアメリカの牧場経営者がJBSを含めた牛肉加工メーカーに「2015年から肉の代価を引き下げるために談合を行った」と非難し、訴訟を起こしました。
by Phil Denton
◆動物虐待
アメリカ人道協会(AHA)は、JBSが契約する食肉加工場では、鶏や豚に対して過剰な打撃を加えたり、非人道的な方法で食肉処理を行っていると報告しました。また、JBSの従業員が子豚に対して麻酔なしで去勢を行っている様子を撮影したムービーも公開しました。AHAの報告を受けてJBSは、問題の食肉加工場からの豚肉の出荷を停止し、社内調査を開始したと発表。また、「いかなる種類の動物虐待も容認しませんし、参加しません」と表明しました。
The Bureauは「JBSの牛肉はブラジルからイギリスのスーパーマーケットまで何千kmも移動しています。その間に、農場や牧場と小売店までの間のつながりがはっきり見えなくなっているため、その肉がどこから来ているのか、そして地球の自然や環境がその安い肉に対してどれだけ高いコストを支払っているのかを一般の消費者はほとんど理解できません」と述べています。
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