地球温暖化を招くメタンガスの排出を人工衛星から監視する取り組みが民間企業主体で始まっている
天然ガスの主成分であるメタンガスは、二酸化炭素の80倍以上の温室効果を持つといわれています。メタンガスは化石燃料の生産や消費だけではなく、埋め立て地や大規模牧場で飼育される牛のげっぷからも発生しますが、そんなメタンガスの排出量を人工衛星からモニタリングするというサービスを提供する民間企業が出てきていると、科学系メディアのScientific Americanが報じています。
Private Space Race Targets Greenhouse Gas Emitters - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/private-space-race-targets-greenhouse-gas-emitters/
企業や規制当局はメタンガス排出量を正確に把握する必要がありますが、地上に設置されたセンサーでは監視できる範囲に限界があり、実用的とはいえません。そこで、人工衛星からメタンガスの排出量を監視するアイデアが提唱されました。
衛星からのメタンガス排出量の監視が注目されはじめたのは2016年頃からとのこと。カナダのモントリオールに拠点を置くスタートアップGHGSatが2016年に打ち上げた概念実証用の人工衛星「Claire」は、地球上のメタンガス排出量を高い精度で監視することに成功。1日に地球をおよそ15周するClaireは、石油・天然ガスの精製施設や発電所、炭鉱、埋め立て地、牧場などさまざまな場所でモニタリングを行い、2019年4月の時点で4000点以上の観察データを取得しました。
Claireが衛星からのメタンガス排出量のモニタリングに成功したことを受けて、複数の非営利環境保護団体が、メタンガス排出量をモニタリングする人工衛星「MethaneSAT」を計画し、さまざまな企業に協賛を訴えかけました。2021年に予定されているMethaneSATの打ち上げと稼働が成功すれば、世界の主要な石油・天然ガスの生産地の最大80%までをモニタリングすることが可能になるとのこと。
企業と政府の規制当局は、こうした民間による衛星モニタリングの試みに感心を持っているとのこと。サンフランシスコに拠点を置くPlanet Labsはカリフォルニア州政府と協力して、石油・天然ガス施設、埋め立て地、牧場の牛から発生するメタンガスを特定するメタンガスモニタリングプロジェクトに取り組んでいるとのこと。
また、同じくサンフランシスコの企業であるBluefieldは、人工衛星はまだ打ち上げていないにも関わらず、すでにいくつかの石油会社や天然ガス会社の施設が排出するメタンガスを測定する契約を交わしているとのこと。なお、Bluefieldは2020年に人工衛星を打ち上げる予定だそうです。
しかし、EUのSCARBO(Space Carbon Observatory:宇宙炭素観測所)のLaure Brooker Lizon-Tati氏は、GHGSatやBluefieldのような企業が実際にメタンガス排出量のモニタリングビジネスを軌道に乗せられるかどうかはまだわからないとのこと。2019年時点では衛星からの測定値と地上センサーでの測定値を比較することでメタンガス排出をモニタリングしているそうで、「民間企業が開発中のセンサーがメタンガス排出量の測定に必要な精度レベルを満たしているかどうかを評価するのは難しい」とLizon-Tati氏は語りました。
しかし、衛星によるメタンガス排出量のモニタリングが進歩することで、企業が工場やパイプラインからのメタン漏れを迅速に発見したり、排出量の増加に対応したりすることが可能になります。また、超高度からの衛星データによってメタンの排出が視覚化されるというメリットもあるとのこと。
ピッツバーグ大学の気候学者であるThomas Lauvaux氏は「気候変動は、人間には触れることも見ることも難しい概念です。しかし、メタンがタンクから排出されているところが目に見えるようになると、衛星画像から多くのことが必然とわかるようになると思います」と述べました。
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