700km以上も離れた場所から電波が直接届く「LoRa」による通信距離の世界最長記録が1日に2度も更新される
LoRaは免許不要で利用可能なISM帯域を利用する無線通信プロトコルで、低電力で広域に通信を行うことが可能であるため、IoTデバイスなどで用いられています。そんなLoRa通信を利用した通信距離の世界最長記録が2019年7月29日に更新されました。さらに、「更新されたばかりの世界最長記録が5時間後に再び塗り替えられる」という珍事が報告されています。
LoRaWAN® distance world record broken, twice. 766 km (476 miles) using 25mW transmission power
https://www.thethingsnetwork.org/article/lorawan-distance-world-record
成層圏実験を行う市民科学プロジェクト「Servet」の4回目のミッションで、2019年7月13日にスペインから複数の気球が打ち上げられました。気球の位置は、IoTプラットフォームのThe Things Networkが提供するLoRaWANを使って地上から追跡されたとのこと。
以下の地図は、スペインから飛ばされた気球の位置を、TTN Mapperで可視化したもの。気球はスペイン、フランス、ポルトガルまで飛んだそうで、最も離れたところでは、スペインのサラゴサ郊外からポルトガルのリスボンまで距離741km・高度3万3100mの場所からの通信があったとのこと。この通信は、2017年8月に達成された702kmという記録を39kmも上回り、およそ2年ぶりに世界最長記録を更新しました。
そんなServetの気球による記録更新とほぼ同時期に、サラゴサ大学のコンピュータ-・アーキテクチャー研究グループが、高度4万mを目標として気球「ダイアナ1世号」を飛ばしました。このダイアナ1世号もまた、Servetの気球と同じくLoRa通信を行うデバイスを搭載していました。
しかし、ダイアナ1世号は悪天候によって期待された高度に達することができず、高度18000mまで降下したところで、ダイアナ1世号からのLoRa通信パケットの送信が停止します。しかし、2019年7月29日に再びLoRa通信パケットを受信した時には、ダイアナ1世号の高度は3万3200mにまで上昇してなおも飛び続けており、最後の通信を行った後、打ち上げから54時間後に大西洋のどこかで行方不明になったそうです。
このダイアナ1世号がサラゴサの上空約2万5000mを飛んでいる時、ダイアナ1世号からのパケットは24カ所のゲートウェイで受信されたとのこと。受信したゲートウェイの1つは高さ2253mの山の上で、ダイアナ1世号からおよそ766kmも離れたスキー場に設置されていたとのこと。この受信はServetの気球による世界記録更新のおよそ5時間後のことであり、LoRaによる通信距離の最長記録をさらに25kmも上回ったとのこと。
以下の画像が、ダイアナ1世号からのパケットを実際に受信したスキー場のゲートウェイ。
企業向け通信サプライヤーであるSemtechのLoRaWAN Academyによると、ヨーロッパにおけるLoRaの理論上最長となる通信可能距離は800kmだとのこと。The Things Networkは「新しい世界記録は、LoRaで通信できる理論上の最長距離に近づいています」と述べ、将来行われるであろうServetの第5回目のミッションでLoRaWANの通信距離の最長記録がさらに更新されることを期待しています。
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