ネットサービス

気球でインターネットを提供するGoogleの「Project Loon」に逆風


Alphabet傘下でGoogleの兄弟会社であるLoonが推進する「Project Loon」は、テニスコートサイズの気球を成層圏に浮かべて、地上の直径40kmの範囲にインターネット通信を提供するというプロジェクトです。2019年中にも初の商用運転に乗り出すProject Loonですが、その試みは決して順風満帆ではないと技術系情報サイトVentureBeatが報じています。

Google's internet balloons face doubts from potential customers | VentureBeat
https://venturebeat.com/2019/07/01/loon-google-internet-face-doubts-from-potential-customers/

「Project Loon」は高高度に設置した複数の気球が相互に通信することで、これまでインターネットが整備されていない地域などにもインターネット通信網を提供するプロジェクトです。Project Loonの全容や実際に使用される気球の見た目などは以下の記事を読むとよく分かります。

Googleが数ヶ月以内に通信キャリアになることが明らかに、気球とドローンでいつでもどこでもネットOKの驚愕の未来像とは? - GIGAZINE


2013年にニュージーランドで実証実験がスタートして以来、改良と実験を重ねてきたProject Loonですが、2019年中にもケニアで初の試験的な商用運転を開始する運びとなりました。ケニアの航空当局は2019年7月中にも最終承認に署名する予定だと述べており、今後数週間以内にケニア第3の通信事業者であるTelkom Kenyaとの提携による4G通信が、ケニアの山岳部に提供される見通しとなっています。

かねてからProject Loonは、通信網が整備されていない地域にもインターネットを普及させることができる試みとして注目を集めており、2019年4月にはソフトバンクが子会社を通じて1億2500万ドル(約135億円)を出資すると発表していました。

Loonのアラステア・ウェストガースCEOはこの時に発表した声明で、「長年にわたる技術開発、のべ3500万km以上の飛行、そして何十万人もの人々とウェブでつながった実績を礎に、我々はさらに多くの人々とつながるチャンスを手にしています」と述べています。

◆技術的な課題
LoonのCEOが自信を見せる一方で、インドネシアのTelkom IndonesiaやニュージーランドのVodafone New Zealand、フランスの大手通信事業者Orangeといった多くの通信事業者はやや温度差のある姿勢を取っています。Orangeの支社であるOrange Middle-East & Africaの最高技術イノベーション責任者Hervé Suquet氏は「ケニアでの事業はLoonが実力を証明するための試金石となるでしょう」と述べました。


というのも、Loonの気球はいくつか難しい課題を抱えているからです。まずコスト面での問題として、気球は1つで数万ドル(約数百万円)ほどのコストがかかるという点が指摘されており、さらに日光などでプラスチック製の外殻部分が劣化するため、5カ月ごとに交換しなくてはなりません。

また、設置できる場所もいくつかの制限を受けます。Loonの気球は太陽光発電システムを動力源としているため、運用は年間を通して豊富な日光照射を受けられることが前提となります。さらに、都市部などに近い場所に設置すると、既存の通信に障害を与える可能性も指摘されているとのこと。また、安定した気流を観測して気球を一定の地域にとどまらせるシステムもあるものの、一度気球が風に流されて移動してしまうと地上のユーザーは通信できなくなってしまいます。

◆地域ごとの問題
Loonは政治的な問題にも直面しています。Loonはケニアに先駆けて、2016年からインドネシアで試験を開始しました。世界第4位の人口を誇るインドネシアは、約2億6000万人もの人々が数千の島々で生活する島嶼国でもあるため、Loonは当初、通常の通信インフラが敷設できない同国にインターネットをもたらす試みとして歓迎されていました。


しかし、実際にインドネシアでプロジェクトをスタートさせたLoonは、気球に監視カメラがあるという陰謀論や、インドネシア当局によるGoogleに対する脱税疑惑といった困難に直面することになります。Loonのインドネシアでの取り組みに詳しい情報筋によると、こういった困難はインドネシアの関係者をGoogle本社に招待した際に、イスラム教徒の関係者に対して豚肉入りのサンドイッチを提供してしまったことに端を発しているという見方もあるとのこと。

Loonは2019年6月に入りやっと政府から予備的な許可を得ていますが、インドネシア国防総省はメディアに対し、「カメラの点検を含むセキュリティ検査がまだ終わっていない」と発表しており、Loonがインドネシアでの運用を軌道に乗せるためにはまだクリアしなくてはならない法的な課題が残っていることを明らかにしています。

また、Loonと長年にわたり協議を重ねているスペインの通信事業者Telefonicaも、最近になって既存の通信設備への太陽光発電の導入を進めており、Loon以外の選択肢を模索する動きを見せています。同じく、Project Loonの導入が期待されていたラテンアメリカ諸国でも、ハリケーンの影響を受けやすいという気球の性質に対する懸念から、災害に強いセルタワーといった代替手段を探す傾向が広まっているということです。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
Googleの成層圏に飛ばした気球でWi-Fiを提供する「Project Loon」が2019年からついに商業展開を開始 - GIGAZINE

気球でモバイル通信を届ける「Project Loon」がハリケーン被害に苦しむプエルトリコへの実戦投入決定 - GIGAZINE

Googleが成層圏を飛ぶ気球からWi-Fiを提供する「Project Loon」のテストを2016年に開始 - GIGAZINE

Googleの気球ネットプロジェクト「Loon」が飛行開始から約1年経過、近況をブログで報告 - GIGAZINE

Googleが気球を使ってどこでもWi-Fiによるネット接続を可能にする「Loon」の受信アンテナ公開、壮大な計画の一端が明らかに - GIGAZINE

Googleが数ヶ月以内に通信キャリアになることが明らかに、気球とドローンでいつでもどこでもネットOKの驚愕の未来像とは? - GIGAZINE

in ハードウェア, Posted by log1l_ks

You can read the machine translated English article here.