AIで分析していれば手術を受けた患者の半分は不要な手術を回避できたという事例
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AIによりがんや悪性腫瘍を発見する技術は近年目覚ましく進歩しており、乳がんや肺がん、脳腫瘍ではすでに熟練の医師よりも高い精度で発見できることが示唆されています。そんな中、すい臓に発生する腫瘍に焦点を当てた研究により、AIで分析していれば手術を受けた患者の60%が不要な手術を回避できたかもしれないという事例が報告されました。
A multimodality test to guide the management of patients with a pancreatic cyst | Science Translational Medicine
https://stm.sciencemag.org/content/11/501/eaav4772
Test shown to improve accuracy in identifying precancerous pancreatic cysts -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/07/190717142421.htm
With This AI, 60 Percent of Patients Who Had Surgery Could Have Avoided It - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/diagnostics/more-than-60-of-patients-could-have-avoided-surgery-if-this-ai-had-been-their-doctor
Machine learning platform guides pancreatic cyst management in patients | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2019-07/aaft-mlp071519.php
すい嚢胞とはすい臓やその周囲に液体が入った袋状の嚢胞が発生する症状のことで、アメリカでは60代の約4%、70代の8%がこのすい嚢胞を患っているとされています。
すい嚢胞の多くは良性ですが、ごく一部はがん化し、しかも一度がんになってしまうと死亡率は90%前後にもなります。しかも、良性のすい嚢胞と前癌状態を見分けることは非常に困難なので、誤診により不必要なすい嚢胞摘出手術を受ける人が後を絶たないとのこと。このため、すい嚢胞の診断の難しさは長年にわたり医師の悩みの種となっていました。
すい臓に発生したがんのイメージ図
by Scientific Animations Inc.
そこで、ジョンズ・ホプキンズ大学シドニー・キンメル総合がんセンターに勤めるSimeon Springer氏らの研究グループは、すい嚢胞を摘出する手術を受けた患者436人分のデータを収集し、教師あり学習の手法でCompCystというAIをトレーニングしました。その後、CompCystに別のすい嚢胞患者426人を「良性なので退院させるべき」「経過観察が必要」「手術の必要がある」の3段階に分類させました。
その結果、標準的な診断法では「退院させるべき患者」を18.9%の精度でしか診断できなかったのに対して、CompCystは60.4%の精度で診断できたとのこと。また、「経過観察が必要な患者」も34.3%から48.6%に、「手術の必要がある患者」も88.8%から90.8%にそれぞれ診断の精度がアップしていました。
by monkeybusiness
この結果から、Springer氏は「CompCystで分析することができていれば、不必要な切除を受けた患者の半分以上が手術を免れたはずです」との見解を述べました。ただし、トレーニングに使用されたデータは手術により得られたものであることや、テストの対象となったすい嚢胞は通常のものより特殊な症例だったことなどから、CompCystは標準的なスクリーニング検査に代わるものではなく、あくまでこれまでの診察法を補完するものだとのこと。
それでも、ジョンズ・ホプキンズ大学の腫瘍学教授で共著者のバート・フォーゲルシュタイン氏は「機械学習を使った臨床判断は、すい嚢胞以外にも多くの疾患に応用可能な次世代技術です」と語り、AIによる診察が医療に新しい時代をもたらすとの見方を示しました。
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