拒食症は単なる精神医学的な問題ではない、という新たな可能性
by Oleg Ivanov
拒食症などの摂食障害は精神障害の一種とされていますが、新たな研究で拒食症が「脂肪を燃やすこと」といった代謝と遺伝子的に関係する可能性が示されました。これまで心理的な治療が主に行われてきた摂食障害ですが、新たな治療法の扉が開かれるかもしれない、と期待が寄せられています。
Genome-wide association study identifies eight risk loci and implicates metabo-psychiatric origins for anorexia nervosa | Nature Genetics
https://www.nature.com/articles/s41588-019-0439-2
Anorexia not just a psychiatric problem, scientists find | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2019/jul/15/anorexia-not-just-a-psychiatric-problem-scientists-find
この研究はキングス・カレッジ・ロンドンとノースカロライナ大学チャペルヒル校の研究者によって行われたもの。研究者は拒食症を患う1万7000人と健康な5万5000人の人々のDNAを比較する形で研究を行いました。
この研究によって、拒食症と不安・うつ・強迫性障害(OCD)を結び付ける8つの遺伝子座が発見されたのですが、これらは同時に、脂肪を燃やすことや、身体的活動、2型糖尿病への抵抗に関係していたとのこと。拒食症は「他の精神疾患には見られない、肉体の代謝との相関関係を明らかに持っている」と研究を行ったGerome Breen氏はコメントしています。一方で、拒食症の半分は遺伝子によって説明されるものの、残りは環境など他の要因によって説明されることについても言及されました。
拒食症は悪化すると死に至ることがある病で、女性の1~4%、男性の0.3%が症状を持ちます。症状の形は「そもそも食べることを制限してカロリーを摂取しないようにする」というタイプもいれば、「通常通り食べるが過度な運動でカロリーを燃焼させる」というタイプもいます。
多くの場合、拒食症は認知行動療法(CBT)と、家族の支援を受けた再摂食プログラムによる治療が行われますが、治療が必ずしも成功するわけではありません。
by Elli O.
拒食症は長らく家庭環境が一因であると考えられてきましたが、専門家の中にはこれに疑念を投げかける人もでてきています。Breen氏は「拒食症を患う人々の家族は、拒食症の家族に対し過度の完璧主義を強いる傾向にあると考えられてきました。しかし、我々は因果関係が逆であり、『完璧主義が拒食症を引き起こす』のではなく『拒食症傾向が完璧主義を増加させる』のだと考えています」と語りました。
一方、今回の研究で発見された8つの遺伝子は拒食症を説明するほんの一部であり、多くの医学的な症状がそうであるように、拒食症もまた、病気にかかるリスクには何百、何千もの遺伝子が関係してきます。
今回の研究は容易な解決方法を提示するものではありませんが、代謝をベースにした新たな治療の可能性を見いだすもの。また症状の再発の予測にも役立つとみられています。
オックスフォード大学で摂食障害を研究するRebecca Park氏は「このような研究が進むことで有効な治療法が見つかり、患者を責めるような文化が変わり始め、苦しんでいる人が苦しみから抜け出せることを願っています」とコメントしました。
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