子どもの手足がマヒしてしまい最悪の場合死に至る「急性弛緩性脊髄炎(AFM)」とは?
by ddimitrova
急性弛緩性脊髄炎(AFM)とは、腕や足の脱力やマヒが突如現れる急性灰白髄炎(ポリオ)に似た病気であり、MRIスキャンによる脊髄の病変によって特徴付けられています。AFMはほとんどの場合子どもが発症する病気であり、時には後遺症が残ったり呼吸困難を起こして死亡したりするケースもありますが、記事作成時点でも原因や治療法などが明確になっていません。研究者らはAFMについての情報を集め、対策や有効な治療法について研究しています。
Mysterious illness that paralyzes healthy kids prompts plea from CDC | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/07/mysterious-illness-that-paralyses-healthy-kids-prompts-plea-from-cdc/
AFMが最初に注目を集めたのは、2014年にアメリカでポリオのような症状の子どもたちが急増した時であり、医療関係者に知られるようになったのはここ数年です。2014年にはアメリカの34州で120件のAFMが確認されましたが、2015年には22件、2016年は39州とワシントンD.C.で149件、2017年には全35件、2018年には41の州で233件の症例が確認されるなど、隔年の流行パターンを見せつつ徐々に発症件数は上昇しています。記事作成時点では2019年の発症件数は11件にとどまっており、やはり隔年の流行パターンに当てはまっているように見えますが、AFMの症例は夏から秋にかけてピークを迎えることから、まだ油断はできない状況とのこと。
発症したAFM患者はほとんどが子どもであり、患者の平均年齢は5歳と非常に低年齢です。発症者のほぼ全てが病院へ入院し、患者のうち60%が集中治療を受けることとなり、27%は呼吸補助を必要としました。しかし、研究者らはAFMに対する有効な治療法を発見できておらず、時間と共に症状が全快するケースもあれば後遺症が残ったり、死に至ったりするケースもあります。
by emrahozaras
AFMの症状がポリオに類似していることから、AFMの発症原因はポリオウイルスを含めたグループのエンテロウイルス属の一種が関連していると考える研究者も多くいます。事実、エンテロウイルス属の一種であり手足口病の主な原因であるエンテロウイルスA71は、ポリオのような症状を引き起こすことが知られています。
また、2014年に初めてAFMが注目を浴びたのは、呼吸器疾患を引き起こすエンテロウイルス属の一種、エンテロウイルスD68(EV-D68)の感染拡大と同時期でした。研究者はすぐにEV-D68とAFMとの関連を疑い、実際に2014年のAFM症例のいくつかにおいて患者がEV-D68に感染していたことが突き止められたほか、「AFM患者に見られる脊髄の損傷が、ポリオウイルスが脊髄に侵入したことで発生する運動ニューロンへの損傷と似ている」という報告もあります。
さらにAFM患者の90%以上が、四肢の脱力といった主症状を自覚する前に、軽度の呼吸器感染症や熱を出していたとのこと。さらに、エンテロウイルス属はAFMと同様に夏の終わりから秋にかけて感染のピークを迎えます。これらの状況証拠からも、呼吸器感染症を引き起こすエンテロウイルス属が脊髄内に侵入し、運動ニューロンを損傷させるという仮説が有力となっています。
by Janko Ferlic
一方でEV-D68とAFMの関連を裏付ける証拠を入手することは非常に困難であり、2018年に確認された症例のうち123例において細菌の感染をチェックした結果、EV-D68陽性だったのは38例にとどまりました。他の10例はEV-A71陽性であり、他の14例は別のエンテロウイルス属に感染していたとのこと。また、233例のうち74例から脳脊髄液のサンプルを採取できましたが、EV-D68陽性だったのはわずか1例であり、他にはEV-A71陽性が1例確認されただけでした。
研究者らはこの結果について、事実としてエンテロウイルス属が脊髄内に侵入していなかったか、あるいは脳脊髄液のサンプルを採取したのがウイルスがいなくなった後だった可能性を考えています。そのため、記事作成時点ではAFMと疑わしい患者が確認されたら、速やかに報告するように通知されているとのこと。
AFMの原因となるウイルスの特定以外にも、「一体なぜ子どもたちの間でだけ流行しているのか?」「なぜ隔年の流行パターンがあるのか?」といった疑問が残ります。また、研究者は兄弟姉妹がEV-D68に感染したものの、そのうちの1人だけがAFMを発症したケースを確認しており、単にウイルスの感染だけではない別の原因があるのではないかと示唆されています。一つの仮説として複数のウイルス感染による症状の重症化がAFMにつながるというものもあり、たとえば蚊が媒介する西ナイルウイルスや風邪を引き起こすアデノウイルスなどがエンテロウイルス属と組み合わさることで、AFMが発生するのではないかと推測する研究者もいます。
しかし、アメリカ疾病予防管理センターのトム・クラーク氏は依然としてAFMの背後にある原因は不明であり、より多くのデータを集めてから具体的な推測を行うべきだと主張。クラーク氏は「AFMはまれな病気です」としつつも、子どもが突然四肢の脱力などの症状を見せた場合、真剣に捉えてすぐに医師の診察を受けるべきだと述べました。
by Semevent
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