「努力は必ず報われる」という教えが与える悪影響とは?
「全力で取り組めば達成できないことはない」「努力は必ず報われる」というメッセージは美辞麗句として、教育やスポーツの現場などで前向きに用いられることが多くあります。しかし、「努力は必ず報われる」と励ますように教育することが若者に悪影響を与えるという指摘が存在します。
It’s Wrong to Tell Our Kids That Hard Work Always Pays Off | Time
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「努力は報われる」と教えられ格言として胸に抱く人は、何かを達成したときや獲得したとき、「無事、努力が報われた」とその考えを確信すると同時に、努力した自分に強い自信を得ることができます。一方で、大きな挑戦に失敗した時、この考えが具体的な病状となって若者を襲うとスミス大学の学生にグローバルな考え方やリーダーシップを育むPhoebe Reese Lewisプログラムのディレクターを務めるレイチェル・シモンズ氏が提起しています。
シモンズ氏は試合中に大きなミスをしたアスリートがひどく自分を責めていると相談された経験を例に挙げ、一見美しく前向きな「努力は報われる」というメッセージは、達成するべき目標に届かなかったときにメッセージの力強さを大きく逆転させ、自己責任によって若者を押しつぶしてしまうものになると主張しています。シモンズ氏によると、この教育は厳しいスパルタによるものではなく、むしろ親が子どもを甘やかすあまりにかけてしまいがちな言葉とのこと。
このような教育は、過去の「思考の研究」を誤って応用したことに起因するそうです。スタンフォード大学の心理学者が発案しベストセラーにもなった「Mindset:The New Psychology of Success」(日本語訳書「マインドセット『やればできる!』の研究」)により、「やればできる!」という考え方が世界中の教育に浸透しました。この考え方は、教育者は能力(頭がいいこと)よりも、それに至るまでの努力(「よく勉強した」ということ)を称賛するべき、というもの。
しかし、アリゾナ州立大学の心理学者のスニヤ・ルター氏とニーナ・クマール氏が2018年に公開した論文では、「努力が成功に等しい」というメッセージにより若者が傷ついていると論じられました。論文によると、成功と同じくらい努力すること自体が素晴らしいというメッセージにより、「不健康な完璧主義」が植え付けられるとのことです。これは、目標がかなり高いハードルであったとしても、「努力さえすれば越えられる」という意識のもと、「諦めて身を引く」という選択を取りづらくなっている精神状態を指しています。
この「不健康な完璧主義」の弊害として、不可能な目標を放棄できない若者が糖尿病や心臓病のリスクを増大させる反応を示したほか、また別の研究では薬物やアルコールの乱用、不安やうつ病に対する耐性が「不健康な完璧主義」と相関があることも示されています。
大人が採るべき教育としてシモンズ氏は、失敗は学習の特徴としてあるもので欠陥ではないことを伝え、若者みずからが目的・目標をつかめるように助けることが重要だと述べています。ルター氏とクマール氏も同様に、目的を自主的に発見した若者が人生の満足度を高めてアイデンティティを確立していることから、心理的な成熟に必要なのは「成功」でも「成功に至る努力」でもなく「目標を見つけること」だと主張しています。
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