サイエンス

吃音のある成人は「自分の声を誰も聞いていない」と信じていると吃音が出なくなるとの研究結果


吃音(きつおん)は言葉が円滑に話せない発話障害の1つであり、言葉を話す時に最初の1音に詰まったり、同じ音を繰り返してしまったりします。アメリカのジョー・バイデン大統領をはじめ、世界中で7000万人もの人々が悩まされているという吃音について、「吃音のある成人は『自分の声を誰も聞いていない』と信じていると吃音が出なくなる」という研究結果が発表されました。

Adults who stutter do not stutter during private speech - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0094730X21000577

Study finds that adults who stutter don’t stutter when they’re alone
https://www.nyu.edu/about/news-publications/news/2021/october/study-finds-that-adults-who-stutter-don-t-stutter-when-they-re-a.html

Study Shows Adults Who Stutter Stop if They Think No One Is Listening
https://www.sciencealert.com/study-shows-adults-who-stutter-stop-if-they-think-no-one-is-listening


以前から、「吃音を持つ人でも1人きりで話す際は吃音が発生しない」という事例が報告されていましたが、この現象を裏付ける証拠はなかったとのこと。ニューヨーク大学で吃音について研究するエリック・ジャクソン助教は、「吃音を持つ人が1人で話している時に吃音が出ないという事例証拠はたくさんありますが、人々が『自分は本当に1人きりだ』と信じられる条件を作り出すことが難しいため、この現象は研究室では確認されていません」と指摘しています。

そこでジャクソン氏が率いる研究チームは、24人の吃音を持つ被験者を対象にして、さまざまなシナリオで話してもらう実験を行いました。研究チームが用意したシナリオは、「音読」「研究者との会話1」「研究者との会話2」「プライベートなスピーチ」「『プライベートなスピーチ』で話したものと同じ言葉を2人のリスナーに話す」の5つ。


5つのシナリオのうち「プライベートなスピーチ」では、被験者に「コンピュータープログラミングの難しいタスク」を行うように求めました。以前の研究から、コンピュータープログラミングの難しいタスクは、被験者から独り言を引き出すことが示されているそうです。また、研究チームは被験者に対し、「プライベートなスピーチの最中に発した言葉は、研究チームが聞いたり分析したりしない」と説明したほか、「独り言が大きいほどコンピュータープログラミングのタスクでよりよい成績を収める可能性が高い」とも伝えました。後のシナリオでプライベートなスピーチで発した言葉を再度話すため、言葉は研究者の書き起こしではなく、「リアルタイムの自動文字起こしソフト」を使って文章化されたとのこと。

しかし、「プライベートなスピーチで発した言葉を聞かない」という説明は被験者をだますためのウソであり、実際にはプライベートなスピーチで発した言葉も研究チームによって録音されていました。つまり、実際には研究チームが聞いているにもかかわらず、わざわざリアルタイムの自動文字起こしソフトなどを用意することで、被験者自身が「この声は誰にも聞かれていない」と信じられる条件を作ったわけです。


研究チームが5つのシナリオにおける発話を分析した結果、被験者が「誰にも声を聞かれていない」と考えていた「プライベートなスピーチ」のみで、ほとんど吃音が発生しないことが判明しました。

5つのシナリオで吃音が発生する頻度をパーセンテージで表したものがこれ。「conversation1(会話1)」「reading(音読)」「private speech+(プライベートなスピーチを再度2人のリスナーに話す)」「conversation2(会話2)」では多くの音節で吃音が見られますが、「private speech(プライベートなスピーチ)」ではほとんど吃音が確認されませんでした。研究チームによると、プライベートなスピーチでは24人中3人の被験者が合計7音節で軽度な吃音を示したことを除けば、1万以上の音節で吃音が観察されなかったとのこと。


ジャクソン氏は、「私は『自分は1人であり、スピーチは誰にも聞かれない』と被験者に納得させる新たなメソッドを開発しました。そして、成人の吃音を持つ人はこれらの条件下で吃音が出ないことを発見しました」と述べています。

なお、今回の被験者をだます研究方法はニューヨーク大学の審査委員会による承認を受けており、全ての被験者は研究の後に「実は『プライベートなスピーチ』の発話も研究チームが録音・分析していた」ことを知らされました。被験者らはこの事実を受け入れ、さらなる研究に参加することにも同意したとのことです。

ジャクソン氏は、聞き手の存在や誰かに声が聞かれているかもしれない状況は、話し手が社会的に評価される可能性をもたらす一方、個人的な独り言は社会的要素を含まないと指摘。「今回の研究結果は、吃音が単なる『スピーチ』の問題ではなく、その核心に強力な社会的要素がある証拠を提供すると思います」と述べました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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