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アルツハイマー病のリスクが3分の1になる薬の研究が闇に葬られた理由とは?

by Wavebreakmedia

世界有数の製薬会社であるファイザーは、一般に流通している関節炎治療薬がアルツハイマー病のリスクを64%も減少させる可能性があることを突き止めました。しかし、ファイザーは研究を進めるどころか、この研究結果を公開することなく社外秘のままにしていましたことが判明したと、海外メディアのワシントン・ポストが伝えています。

Why Pfizer didn’t report that its rheumatoid arthritis medication might prevent Alzheimer’s - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/business/economy/pfizer-had-clues-its-blockbuster-drug-could-prevent-alzheimers-why-didnt-it-tell-the-world/2019/06/04/9092e08a-7a61-11e9-8bb7-0fc796cf2ec0_story.html

Medicine needs to embrace open source | ZDNet
https://www.zdnet.com/article/medicine-needs-to-embrace-open-source/

エタネルセプト」は関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療薬で、ファイザーはこのエタネルセプトを「エンブレル」という商品名で販売しています。

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2015年に入り、ファイザーの炎症・免疫学部門の研究者らは、医療保険の請求に関するデータベースから、エンブレルがアルツハイマー病のリスクを大きく減少させる可能性があることを発見しました。具体的には、関節炎などの治療のためにエンブレルを服用していた患者は、そうでない患者に比べてアルツハイマー病の診断を受ける割合が64%も少なかったとのこと。ただし、これはあくまで統計的な結果にすぎないため、実際にエンブレルがアルツハイマー病のリスクを低減させるかどうか確かめるためには、さらなる研究が必要でした。

しかし、ファイザーはエンブレルの研究を打ち切り、エンブレルがアルツハイマー病のリスクを低減させる可能性があるとの情報も公にしませんでした。そのため、ワシントン・ポストがファイザーの社内資料からこのことを突き止めるまで、エンブレルの隠れた薬効は誰の目にも触れることなく放置されてしまう結果となりました。

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ファイザーが調査を打ち切った理由について、同社の広報担当者は「統計結果は『厳格な科学的基準』を満たしていないため信用に足りなかった」と回答しています。同様に、統計結果を公表しなかった理由についても「いたずらに公表すれば余計な期待をあおり、誤解を招くおそれがあった」と説明しました。また、エンブレルの分子は血中成分が脳に届くために通らなくてはならない血液脳関門を通るには大きすぎるため、脳に作用する見込みは薄いという判断もあったとのこと。

しかし、アルツハイマー病の研究者らはこの回答に懐疑的です。ジョンズ・ホプキンズ大学の医学助教授キーナン・ウォーカー氏は「末梢神経や全身の炎症がアルツハイマー病の原因となっているという説もある以上、脳に届かなければ無意味だと判断するのは拙速に過ぎる」と指摘し、否定的な見方ができるからといってデータを秘匿すべきではなかったとの見解を述べました。ハーバード大学医学部教授でアルツハイマー病研究の第一人者でもあるルドルフ・タンジ氏も、ファイザーはデータを公表すべきだったかというワシントン・ポスト紙の質問に対して「もちろんです」と回答しています。

ワシントン・ポストは、ファイザーがエンブレルに関する研究を打ち切ったばかりか、アルツハイマー病への効果を示唆するデータすら非公開にした本当の理由は、利益を優先したためだとみています。というのも、エンブレルは2012年に特許が切れたため、ジェネリック医薬品の開発が進んでいました。特許が切れたからといって、元となった商品が販売できなくなるわけではありませんが、安価なジェネリック医薬品が登場すれば価格競争にさらされることになるため、収益は大きく落ち込むのが一般的です。

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世界有数の製薬会社といえど、公共団体ではなく利益追求団体である以上、公益よりも利益を優先させるのはある意味で当然ともいえます。また、医薬品の効果を検証するために必要な臨床試験には莫大な費用がかかるため、経営難に直面し、世界規模でリストラを進めているファイザーが追加投資をしぶったことについてはやむを得ない側面もあります。

その一方で、「薬の値段が高いのは製薬会社が研究開発ではなく、マーケティングに費用をつぎ込んでいるため」と指摘がされるなど、製薬会社が薬価のつり上げにより法外な利益を得てきたのも事実です。

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こうした事例を背景に、大企業の都合で病に苦しむ人々に医薬品が行き渡らない現状を打破しようする試みのひとつが、「医薬品のオープンソース化」です。国境なき医師団必須医薬品キャンペーンで最高責任者を務めたことで知られるマニカ・バラセガラム氏は「生体医学分野の研究には『王国』とでもいうべき巨大で腐敗した側面があります」と語り、公衆衛生ではなくマーケティングを優先する既存のビジネスモデルを批判しています。

その上で「既存のビジネスモデルにのっとっただけのファイザーをやり玉に上げるよりも、医薬品を研究開発するための新しいやり方を築くことが重要です」と話し、医薬品の研究開発がオープンソース化することで、より多くの人々が適正な価格で医薬品を手にすることができるとの期待を表明していました。


医薬品に関する知的財産の多くを大企業が占有していることを考えると、オープンソース化はあまり現実的ではないとの見方もできます。しかし、自動車のOS送電システム、さらにはハリウッド映画の特殊効果までオープンソース化されていることを鑑みれば、医療やヘルスケアもまたオープンソース化が可能であると、バラセガラム氏は述べています。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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