「教師の初年度年収を最低650万円に」など「教師の価値」の議論が2020年米大統領選に向け加熱中

By monkeybusiness

教師には十分な給料が支払われるべきだとして、2020年アメリカ合衆国大統領選挙の民主党候補を争う複数の議員が「教師の昇給」を公約に掲げています。中でもバーニー・サンダース上院議員は「初年度の年収を最低でも6万ドル(約650万円)に」と語り話題となっているのですが、本当の「教師の価値」とは一体いくらなのか、ナショナル・パブリック・ラジオが一連の議論について報じています。

What Economists Think About Democrats' New Education Proposals : Planet Money : NPR
https://www.npr.org/sections/money/2019/06/04/729423163/what-economists-think-about-democrats-new-education-proposals

学校教育は子どもの未来を変え、ひいては国の将来を変えうるものです。それゆえ教師の責任は重大で、そして何より「教師の質」が重要です。2017年のOECDのデータによると、アメリカにおける教師の初年度の年収は約4万ドル(約430万円)、OECD加盟国の中で36カ国中9位となる金額が支払われています。アメリカの平均年収5万1960ドル(約560万円)に比べて教師全体の平均年収は6万2000ドル(約670万円)で、2017年において教師は平均を上回る給料を受け取っています。

しかし、経済学と公共政策についてプリンストン大学で学んだグレッグ・ロザルスキーさんは「他国の教師やアメリカの他の職業とアメリカの教師の給料を比較することは間違いかもしれない」と語ります。アメリカでは教師になるためには一般的に大学の学位が必要であるため、ロザルスキーさんは「どのようにすれば優秀な人間が弁護士(平均年収約1600万円)やエンジニア(平均年収約1000万円)ではなく、教師になってくれるのかが問題」と語っており、「教師と比べられるべきは学位を要する他の職業」と主張しています。

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教育の価値は誰もが認めることですが、「優秀な教師の効果」に関する結論は出ていません。スタンフォード大学フーバー研究所の経済教育専門家であるエリック・ハヌシェク氏の(PDF)研究によると、優秀な教師は1年間の授業で生徒の生涯賃金を1人あたり2万ドル(約220万円)増加させる可能性があるとのこと。授業はクラス単位で行われるため、1クラス20人として考えると、1年で40万ドル(約4300万円)の効果があるといえます。

また、優秀な教師の効果は、生徒の年収にだけにとどまらず、犯罪率の低下や人格の形成など多岐にわたります。ハヌシェク氏は「教師の給料は不足しており、本当に優秀な教師には10万ドル(約1100万円)以上の年収が支払われるべきです」と語っています。

経済学者のそういった提言に応えるようにして、2020年アメリカ合衆国大統領選挙の民主党候補を争う議員は「教師の昇給」を考えているとのことです。カーマラ・ハリス上院議員は平均的な教師の年間給与を1万3500ドル(約150万円)増やすために10年間で3150億ドル(約34兆円)の予算増額を望んでおり、ジョー・バイデン上院議員は低所得地域の学校の予算を3倍にしたいと語り、サンダース上院議員は州と連携して国内の教師の初任給を最低6万ドル(約650万円)にしたいと考えているそうです。

By bialasiewicz

しかし一方で、「どのようにして教師の能力を測るのか」という問題は解決していません。アメリカ統計学会などは「生徒の成績に対する教師の影響を測定するための計算モデルには疑問がある」と主張しているそうです。また、「生徒のテストの得点のみが教師の能力ではない」と考える経済学者もいます。

アメリカ教員連盟の会長であるランディ・ワインガーテンさんは、教師の能力測定問題に20年間取り組んでおり、サンダース上院議員の「最低年収6万ドル」という考え方を支持しています。ワインガーテンさんは「中流階級の給料が確保されれば新任教師が『学生ローンの支払いも可能で、家庭を持つこともできる』と考えられるようになります」と語っています。