「肉のマネーボール」によってアメリカの牛肉の質は良くなり続けている
By Alex_star
統計学を駆使した評価によって経営戦略を決定する「マネーボール」は、オークランド・アスレチックスの事例がよく知られていますが、実は手法としてはアメリカの畜産業界が「マネーボール」以前から取り入れているもので、アメリカの牛肉の質は上がり続けているそうです。
Steak Boom: Moneyball and DNA Testing Create Marbled Meat - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/features/2019-05-30/moneyball-for-cattle-is-creating-an-american-steak-renaissance
「マネーボール」とは、2003年に出版され、2011年にブラッド・ピット主演で映画化されたマイケル・ルイスの書籍の題名です。2002年当時、年俸総額がトップ球団の3分の1程度だったオークランド・アスレチックスが、出塁率・長打率・選球眼・奪三振数・被本塁打数などのデータを統計学を駆使して評価する「セイバーメトリクス」を用いて野球の常識を覆すような戦略を打ち出し、強豪となっていく姿を描いています。アスレチックスが2000年~2003年・2006年と7年で5度プレーオフに進出する快進撃を見せたことから、「経営戦略に統計学的分析を活用する」ことが「マネーボール」と呼ばれるようになりました。
ところがBloombergによると、「マネーボール」出版以前から畜産業界は統計学的分析を用いた肉質改良に取り組んでいたそうです。
By merc67
Bloombergによると、アメリカ畜産業界で「マネーボール」が産声を上げたのは1970年ごろ。アメリカアンガスビーフ協会は「出産が難産だったかどうか」から「子牛の性格」に至るまで情報を細かく収集し、各種データを元にして形質が子牛に遺伝する可能性などを分析していたそうです。生まれてくる子牛の体重や気質の予測値は期待後代差(EPD)として公開され、肉質が良くなる形質を持つ牛同士を繁殖させることによって「より良い牛肉」を求める畜産家の助けになっていました。
その後、1990年ごろには超音波検査、2010年ごろにはDNA鑑定と、子牛の形質データを得るための新しい手法が次々に登場し、データの精度はさらに上昇します。また、分析ツールも格段の進歩を遂げており、牛肉の質は上昇し続けているそうです。アメリカ合衆国農務省の牛肉の格付けにおいて最高のグレードである「プライム」とその次の「チョイス」に分類される牛肉は2014年には全体の70%ほどでしたが、2019年には全体の82%を占めています。中でもプライムは「偶然生まれる」とまでいわれるほど貴重で、長年にわたってその割合は全牛肉の1%から2%ほどでした。しかし今では、プライムの割合は全体の10%にもなるそうです。
By Lukas Budimaier
牛肉の質の上昇による影響は数値にも表れています。アメリカ合衆国農務省によると2018年度の最高級牛肉の価格は2011年以来の最安値を記録したとのこと。2019年のアメリカの1人あたり牛肉の年間消費量は57.7ポンド(約26kg)と予測されており、10年ぶりの最高値を記録する見込みです。
アーカンソー州で牧場を経営するジム・ムーアさんは25年前から自身の牧場で肉質の改善に取り組み続け、今では出荷する肉の約53%が「プライム」を獲得し、残りの肉もすべて「チョイス」に分類されているそうです。Bloombergの取材に対してムーアさんは「質の低い牛肉を食べた人はしばらく牛肉を食べようとしませんが、良質な牛肉を食べた人はまたすぐに牛肉を買い求めるでしょう。牛の畜産家は可能な限り高品質の肉牛を生産しなければなりません」と回答しており、質の高い牛肉を供給することに情熱を持って取り組むことを強調しています。
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