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スタートアップの従業員が適切な報酬を得られなくなっていると「シリコンバレーのゴッドファーザー」が指摘

by nd3000

スティーブ・ブランク氏はハイテク企業の関係者らからは「シリコンバレーのゴッドファーザー」とも呼ばれている、シリコンバレーでは有名な起業家です。ブランク氏が「21世紀に入り、スタートアップで働く従業員が適切な見返りを得られなくなってきている」と指摘しています。

Steve Blank Startup Stock Options – Why A Good Deal Has Gone Bad
https://steveblank.com/2019/04/10/startup-stock-options-why-a-good-deal-has-gone-bad/

これまでアメリカのハイテク企業は、会社の設立に尽力した従業員たちに報酬として「ストックオプション」を与えてきました。ストックオプションとは、将来その会社が株式上場した際の株式をあらかじめ決められた価格で購入する権利のこと。その会社が成長し、あらかじめ決めた価格よりも株価が高くなれば大きな利益になるため、従業員に高い給料を支払えない新興企業が、優秀な人材を確保するための方法として活用されてきました。

by Gajus-Images

以前は創業者などの企業の経営陣も、比率こそ違うものの従業員たちと同じストックオプションを給料代わりに受け取ってきました。このため、経営者と従業員たちは時には一緒に会社に泊まり込んだり、時に最初の製品を片手に見本市を駆けずり回ったりして、苦楽を共にしながら一丸となって会社の成長を目指すことができました。世界で初めて半導体集積回路を商業生産し、のちにIntelなどの世界的な半導体メーカーを興す人材を育てるなど、シリコンバレーの先駆けともいえるフェアチャイルドセミコンダクターもこうして成長した企業のひとつです。

しかし、21世紀に入ってからこの関係は変わり始めています。最大の要因は、新興企業が株式公開(IPO)を迎えるまでの期間が長くなったことです。以前は、新興企業が資金を調達する方法は「シード・キャピタル(起業の元手となる文字通り種のような資金)」と「ベンチャー・キャピタル(冒険的な投資先として投資家から受け取る資金)」の2本立てでした。この枠組みでは、新興企業が株式公開に至るまでには長くでも数年程度で、例えばAmazonは設立から3年目に上場しています。


これが21世紀に入ってからは、「シード・キャピタル」「ベンチャー・キャピタル」に続き、「グロース・キャピタル(事業拡大資本)」と呼ばれる3つ目の段階を経るようになり、株式公開までの期間が後ろ倒しにされるようになりました。


起業家のマーク・サスター氏は企業の株式が非公開である期間が長いほど、企業の価値は高くなると指摘しており、IPOまでの期間が長いことにもメリットはあります。しかし、あまりもこの期間が長いと、その分従業員がストックオプションを行使できるようになるまでの期間も長くなってしまいます。設立から株式公開まで10年を超えるケースも多くなってきており、こうなってしまうとそもそも経営が軌道に乗るまでの、その場しのぎの報酬であったはずのストックオプションの趣旨が損なわれてしまいます。また、企業に新たな資本が大量に流入すると、その分だけ将来発行される株式の数も増えるため、従業員がストックオプションを行使して受け取れる株式が全体に占める割合が低くなってしまいます。これにより、ストックオプションの価値が相対的に薄められてしまうという事態が発生するようになりました。

さらに、経営者とそれ以外の従業員との間の関係も変容しつつあります。過去50年の間に、CEOが受け取る報酬の額は平均的な従業員らの給料の20倍から300倍に膨れ上がりました。また、経営者は報酬をストックオプションではなく、「制限付株式(リストリクテッド・ストック)」で受け取るようになってきました。リストリクテッド・ストックとは、売買に一定の制限がある株式のこと。勤続年数などの一定の制限があるものの、ストックオプションと違って現物の株式として交付されるもので、配当なども受け取ることができます。これにより、経営者たちの目線が従業員目線から資本家目線に移っていくこととなり、かつて「同じ船に乗っていた」といわれた経営者と従業員の関係は変わってしまいました。

by vadymvdrobot

こうなった背景には、スタートアップ、とりわけ技術系のベンチャー企業が置かれた環境の変化があります。20世紀のベンチャー企業はひとつの技術で長期的な成長が見込めたのに対して、21世紀に入り技術の進歩がどんどん加速するにつれて、短期間でイノベーションを繰り返す必要が出てきました。これにより企業は硬直的な経営を避けるべく短期間で経営陣を変える必要に迫られるようになり、自然と企業が経営者に与える報酬は増大し、かつ短期的な性格のものになっていきました。こうした環境の変化に応じて、スタートアップの経営者や投資家がリターンを得る仕組みも変わってきたのに対して、従業員が報酬を受け取る仕組みには手が入らなかったため、スタートアップの従業員たちは改革に取り残されることになったわけです。

ブランク氏は、こうした変化が「新興企業で働くことの魅力を損ない、人材が大企業に流出するようになっている」と語り、投資家たちはスタートアップの立ち上げに参加する従業員にインセンティブを与えるような新しい仕組みを取り入れなければならないと指摘しました。また、スタートアップの立ち上げに参加する従業員は、ストックオプションではなく経営者と同じリストリクテッド・ストックで報酬を受け取るようにするといいと助言しています。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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