脳が成長し続けるという発見は、アルツハイマー病を治療できる可能性につながる
学習や記憶などを担う領域において、脳を構成する神経細胞「ニューロン」が大人になっても新しく生まれ続けるかどうかという議論に対し、国際的な科学ジャーナル「Nature」が2018年に発表した論文では、「ある程度大人になったら新しくニューロンは生まれなくなる」という否定的な意見が示されました。この「脳の成長は止まるのか?」という疑問について、Natureの関連誌「Nature Medicine」が2019年3月に公開した最新の論文では、「大人の脳も新しいニューロンを成長させる」という見解が改めて主張されています。
Adult hippocampal neurogenesis is abundant in neurologically healthy subjects and drops sharply in patients with Alzheimer’s disease | Nature Medicine
https://www.nature.com/articles/s41591-019-0375-9
The Adult Brain Does Grow New Neurons After All, Study Says - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/the-adult-brain-does-grow-new-neurons-after-all-study-says/
2018年の論文は、「成人のヒト海馬は新しいニューロンを生成し続ける」という考えについて、「ある研究は何百というニューロンが毎日増えていると述べ、別の研究はもっと少ない数だと発表する、という食い違いを看過して『ニューロンが増える』という結論を受け入れるのはおかしい」と指摘しています。また、学習・記憶などをつかさどり精神疾患との関連でも注目される海馬の領域「歯状回」においてニューロンが生成される数は、生まれた時から急速に減少し、成人では継続して生成されないか極めてまれに起こるのみだと同論文で主張されました。
2019年に論文を発表した研究者は、海馬がアルツハイマー病などの精神疾患と関連していることから「海馬に新しいニューロンが生成されるならば精神疾患の治療につながる」と、「成人海馬神経発生」に強く注目しています。
スペインの研究チームが行ったこの研究では、新たに死亡した58人の脳組織の保存方法とそれに伴う変化の違いが調べられました。論文の著者であるマドリード自治大学のマリア・ロレンス・マーティン教授は、「脳組織は死後数時間以内に特定の化学物質などを適切に用いて保存しなければ細胞が破壊されていくのであり、過去の研究では正確に保存されていない脳組織を対象にしたことにより、死後に破壊されてしまった細胞を見逃しています」と述べています。
マーティン教授は2010年に脳を正しく保存する重要性に気付き、慎重に脳サンプルを保存し始めたとのこと。その上で記憶能力に問題なく死亡した人々とアルツハイマー病のさまざまな段階で死亡した人々の脳を調べた結果、アルツハイマー病患者の脳では海馬に新しいニューロンの兆候がごくわずかしか見られず、また病状が進行していた脳ほど兆候は少ないことを発見しました。
この研究は脳が新しいニューロンを発生させ続けていることを直接示すものではありませんが、記憶能力の低下はニューロンを新規生成する能力が下がっていることによると考えられ、また生きている脳のどこでどのようにニューロンが生成されているかを発見できればアルツハイマー病を防ぐこともできることを示唆しています。
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