ウジ虫がどのようにして効率的にピザを食べるのかを研究者が流体力学的に解明
by PublicDomainImages
ハエ目に属する昆虫の幼虫であるウジ虫は、生ゴミや動物の死骸などに大量にたかって消化していくというイメージがあります。ウジ虫が食べ物にたかり、次々と食べ物を処理していく「集団摂食行動」について研究しているジョージア工科大学の研究者は、いったいなぜ大量のウジ虫があっという間に食べ物を処理できるのかについて実験を行いました。
Black soldier fly larvae feed by forming a fountain around food | Journal of The Royal Society Interface
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsif.2018.0735
Georgia Tech scientists figured out how maggots can eat so much, so fast | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/02/study-black-soldier-fly-maggots-form-fountains-to-feed-more-quickly/
研究を行った大学院生のオルガ・シシコフ氏は自身の研究について、「私が知る限りウジ虫がどれほどの量の食べ物を食べるのか、どのようにして食べるのかについて実験したのはこれが初めてです」と語っています。シシコフ氏は流体力学的な観点から、ウジ虫の集団行動の力学についても関心を持つようになったとのこと。「私は流体力学のテクニックを動物の行動に適用することができるのだろうかと興味を持ちました」とシシコフ氏は述べています。
シシコフ氏の所属する研究室はアトランタのGrubbly Farmsというスタートアップから、大量のアメリカミズアブの幼虫であるウジ虫を入手しました。Grubbly Farmsはニワトリや魚に対して安定的なエサを供給することを目的にしているスタートアップで、ウジ虫はそのエサとなる有力候補です。
アメリカミズアブのウジ虫は果物や野菜を中心とした生ゴミをエサとしており、1日に自分の体重の2倍ものエサを食べることができます。人間は毎年14億トンもの食品ゴミを生み出しており、その生ゴミ処理係としてウジ虫は有力な解決策となり得ます。さらにそのウジ虫を家畜や養殖魚のエサに回すことで、効率的な食物生産および消費が可能になるとGrubbly Farmsは考えているとのこと。
by Oleksandr Pidvalnyi
個々の幼虫はとても小さいですが、食べ物にたかるウジ虫は山のように積み重なります。研究チームは集団摂食行動を観察するために1万匹ものウジ虫を10ガロン(約38リットル)の水槽に入れ、その中心に食べ物を置き、水槽の天板に取り付けたカメラでウジ虫の動きを記録したとのこと。
さらにシシコフ氏らは粒子画像流速測定法(PIV)という、流体力学的な研究に用いられる手法を実験に導入。ウジ虫の速度分布を計測することで、食べ物を食べている際にウジ虫の大群がどのように動いているのかを分析したそうです。
例えばピザをウジ虫が食べる場合、表面積が限られているため一度に摂食できるウジ虫の数は制限されます。大量にウジ虫がたかっているように見えても、実際に食べ物を食べられるウジ虫は限られており、食事できないウジ虫はピザを食べるウジ虫が離れるまで待機することになるわけです。このようなウジ虫の接触活動をPIVを用いて測定・分析したところ、ウジ虫は5分間の摂食行動中におよそ44%ほどしかピザを食べておらず、残りの時間は休憩していることがわかりました。
休憩中のウジ虫がピザの周囲にとどまったままでは、ウジ虫の体がほかのウジ虫をブロックしてしまい、後ろで待っているウジ虫がピザにありつくことができません。そこで、待機中のウジ虫は「噴水のような行動」を取ることにより、ピザへと近づくことがわかったとのこと。「新しいウジ虫は前方のウジ虫の下をはって前進し、下から上へと押し上げるようにしてピザへ到達します」とシシコフ氏は述べています。
by Bruno Cantuária
今回の研究結果は、ウジ虫の摂食行動モデルを作ることで「ウジ虫が特定の食べ物を食べる速度」を予測できるようになる可能性があるだけでなく、ウジ虫の養殖にも大きく役立つそうです。アメリカミズアブのウジ虫は水槽のようなケースで飼育していると、摂食行動中に群れ全体が熱を持ちやすいとのこと。野生環境であれば過熱した場合に涼しい場所を求めて移動すれば大丈夫ですが、水槽のような空間ではウジ虫が逃げられず、群れ全体が過熱で死んでしまうことがあります。
そこでウジ虫の行動をもとにした空調装置を開発してケースの底面に取り付け、摂食行動中のウジ虫が過熱して死んでしまわないようにすることができるとシシコフ氏は考えています。これにより、ウジ虫農家はより効率的なウジ虫飼育が可能になるとのこと。
なお、実際に大量のウジ虫にピザを食べさせてみた様子をとらえたムービーがコレ。虫系の映像が苦手な人にとっては刺激の強い光景となっていますが、みるみるうちにピザがウジ虫に食べられていく様子がよくわかります。
Snippet: Larva devour a pizza in 2 hours
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