揺れながら眠ると記憶の固定がブーストされる

by Oleksandr Pidvalnyi

睡眠中に「揺れ」の動きを経験すると睡眠の質がよくなるだけでなく、記憶の固定をブーストできることが、生物学を対象とした学術誌「Current Biology」に掲載された新しい2つの論文で示されました。人間とマウスを対象として行われた2つの研究結果は、不眠症治療に対する新しいアプローチになりえるとのことです。

Rocking motion improves sleep and memory, studies in mice and people show -- ScienceDaily
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/01/190124110844.htm

Whole-Night Continuous Rocking Entrains Spontaneous Neural Oscillations with Benefits for Sleep and Memory
(PDFファイル)https://www.cell.com/current-biology/pdfExtended/S0960-9822(18)31662-2

Rocking Promotes Sleep in Mice through Rhythmic Stimulation of the Vestibular System
(PDFファイル)https://www.cell.com/current-biology/pdfExtended/S0960-9822(18)31608-7

Current Biologyに掲載された1つ目の研究は、人間を対象に実験を行ったもの。研究を行ったスイス、ジュネーブ大学の生物学者Laurence Bayer氏は、この場合の「質のよい眠り」を「即座に眠りに落ちて一晩中深い眠りを経験すること」と定義しているとのこと。

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Bayer氏と同じくジュネーブ大学のSophie Schwartz氏は「揺れながら眠ること」の効果を確かめるため、健康な18人の青少年を対象に研究所で睡眠をモニタリングするという実験を行いました。最初の夜は被験者たちに実験に慣れてもらうために何もしない状態で眠ってもらい、次の二晩のうち一晩は「ベッドを優しく揺らした状態」で、もう一晩は同じベッドを「揺れがない状態」にして眠ってもらいました。

この結果、被験者はベッドが揺れているとより早く眠りにつくこと、そしていったん眠りにつくと眼球運動がないノンレム睡眠の時間が増え、より深い眠りにつく傾向にあることが示されました。

次に研究者たちは質のよい眠りが記憶の固定にどれほど役立っているのかを調査。どのくらい記憶の固定が行われているかを調べるために、被験者には単語のペアを覚えてもらいました。前日の夕方に覚えた単語のペアを、翌日の朝になって被験者がどのくらい正確に覚えているかが調られたところ、睡眠時に揺れがあった時の方が記憶が固定されていたことが示されたといいます。

さらに、研究者たちは揺れを加えた眠りがノンレム睡眠を示す脳波を生み出すことを発見しました。これらのデータから、揺れのある眠りは、眠りと記憶の固定において重要な役割を果たす視床と皮質のネットワークの神経活動を同期させるのだと研究者はみています。

by Max Andrey

また、チューリッヒ大学のKonstantinos Kompotis氏らが行った別の研究では、睡眠時の揺れについて、マウスを対象とした実験が行われました。研究者はマウスの睡眠時にケージを揺らしたところ、マウスに最適な振動は人間の4倍の速さでしたが、マウスにおいても揺れが睡眠に落ちるまでの時間を短くし、睡眠時間を長くすることが示されたとのこと。ただし、マウスがより深く眠っていたという証拠は示されていないそうです。

「睡眠と揺れとの関係には体の平衡感覚を担う前庭系へのリズミカルな刺激が関わっている」と考えた研究者は、耳石が機能しないマウスについても調査を行いました。この結果、耳石が機能しないマウスは睡眠時の揺れによる効果を受けていないことが示されたといいます。

Bayer氏とPerrault氏は、この2つの研究が「睡眠時の揺れが効果的だということの根底にある、神経生理学のメカニズムに関する新しい知見を示している」と述べています。これらの研究は不眠症や気分障害、そして高齢者が経験する不眠や記憶力の低下に対する新しいアプローチとなるとのこと。そのためには脳の構造をより正確に理解すべく調査を行うことが必須であると研究者は示しています。