メモ

無料で腕時計を売ることで利益を得る「Folsom & Co」のストーリーテリング戦略から学べること


InstagramやFacebookで時計を「0円」で販売する広告を出す「Folsom & Co」は、「無料」という人の心を刺激する言葉を利用して運営を行っている通販サイト。「Folsom & Co」は詐欺まがいだとして購入者から非難されていますが、厳密には詐欺ではなく、不正を行っていないため、犯罪行為として取り締まることができないとのこと。Folsom & Coはテクノロジーの進歩によって、これまでは大手ブランドしかできなかったストーリーテリング戦略を誰でも行えるようになった例だとして、ライターのJenny Odell氏がFolsom & Coの実態をまとめています。

There’s No Such Thing as a Free Watch | Topic
https://www.topic.com/there-s-no-such-thing-as-a-free-watch

2017年7月、アメリカにあるMUSEUM OF CAPITALISM(資本主義博物館)に1つの時計が寄贈されました。この時計はアメリカ・サンフランシスコを拠点とするとされる「Folsom & Co」のもので、Instagramにおいて、送料として7ドル(約790円)が必要であるものの「無料の時計」として広告が出されていました。

2017年6月頃に「@shopfolsom」というInstagramアカウントがプロモーションとして表示させていた時計は、ダニエルウェリントンをほうふつとさせるシンプルなデザインで、特にブランド名などは刻まれていません。バンド部分は鎖かたびらのような質感ですが、装着が難しく、付け心地も不快で、「四角い手首が必要」と評価されるほど。ただし、時計としては問題なく機能するそうです。

「Folsom & Co」のウェブサイトを見てみると、高解像度画像やクリーンなデザインが使われており、普通のアパレルブランドに見えます。

Designer Watches for Women | Buy watches For Men Online – Folsom & Co
https://folsomshop.com/


しかし、以前はスーザン・サランドンがプロデュースした「SPiN」という卓球クラブの写真がまるで自社や自社店舗のように使われており、「home to web gurus, urban warriors(都会の戦士そしてウェブの教祖たちのホーム)」という一文も別のウェブサイトからまるごと持って来たものとのこと。

そして、時計の販売ページでは当時、29.99ドル(約3400円)の時計が以下のような形で「0ドル」として販売されていました。そして、「ADD TO CART」の下には、いつ訪れても「締切までわずか数時間」ということを示すカウントダウンが表示されていたといいます。また「5%のカスタマー限定」「人気によって発送まで3~4週間かかります」といった表示や、「今誰かが購入しました」というポップアップなど、ウェブサイトを訪れた人の購買意欲をあおるための要素の数々が設定されていました。


しかし、インターネット上に上がっているFolsom & Coのレビューはさんざんなもので、中には明らかに壊れているものもあったそうです。


オンラインフォーラムの中では「誰かが大量に安い時計を中国から買ってきたものを、高い送料を請求することで売っている」という指摘をする人も現れています。つまり、これは「無料」が好きな人に焦点を当てたマーケティング戦略の1つで、「10ドル(約1100円)の時計を2ドル(約230円)の送料をつけて売る」のではなく、「無料、ただし送料12ドル(約1350円)」とすることで、人々を「お得」という気持ちにさせるわけです。

またレビューサイトのTrustpilot ReviewsにFolsom & Coの時計が「Soficoastal」という女性向けのハイブランド過去にはSoficoastalも時計を「無料」として販売し、さんざんな評価を受けていました。Soficoastalはマイアミビーチを拠点とする企業で、製品はマイアミからインスピレーションを受けているとのことですが、ウェブサイトはFolsom & Coのそれと類似しています。

soficoastal - luxury watches and bracelets at affordable prices
https://soficoastal.com/


なお、トップページの写真はフリー素材を扱うShutterstockから取ってきたサーファーの画像だということもわかっています。


実は、Folsom & CoやSoficoastalは、別々の街を拠点だと主張するウェブサイトの一部にすぎず、この他にも「Ottega」「Gilchrist Watch Company」「Regent & Co」など、同じ時計を販売する類似ウェブサイトは多数存在します。サイトによって時計の値段は異なりますが、いずれも販売ページのデザインは似たものになっています。これらのサイトはECサイト作成サービス「Shopify」で無料提供されている「Brooklyn」というテンプレートを使用したものだそうです。


ウェブサイトによってブランドの拠点が異なり、あたかもその街に実店舗が存在するかのような写真も表示されていますが、例えば「Alexandria NYC」というウェブサイトの写真は、無料のストックフォトをPhotoshopで編集したもの。一方で、ウェブサイトはWHOIS情報を有料でプライバシー保護しているので、ウェブサイトの本当の拠点がどこかを調べることはできないそうです。


ウェブサイトの「About」ページには、「Bradley’s Mens Shopは、自分自身をよく見せたいが『ファッションやスタイルは高価であるべきではない』と考えるBradleyという名の人物からインスパイアされました」といったざっくりした情報がストックフォトと一緒に掲載されています。

そして、サイトで販売されている「The Alpha」という時計の画像を逆検索すると、なんと1.99ドル(約220円)で同様の時計を販売するAmazonのページにたどり着いたといいます。


画像の逆検索から時計の製造場所を特定しようという試みが行われたそうですが、そもそもFolsom & CoやSoficoastalの製品写真はROSEFIELDなど本物の時計ブランドの写真を利用した「フィクション」であり、逆検索しても本物の画像が見つかるだけのことが多かったとのこと。Folsom & CoやSoficoastalの時計の写真の中には、Photoshopでブランド名を消し忘れているものすらありました。

Folsom & Coの時計を作っている会社として、中国にあるShenzhen Gotop Technology Co. Ltdが挙げられています。Shenzhen Gotop Technologyはアリババで店舗を持ち、Folsom & Coと同じデザインの時計を1つ5ドル(約560円)ほどで販売していますが、それ以下の価格で販売されているものもあることから、Shenzhen Gotop Technologyがサプライチェーンの始まりではない可能性もあるとのこと。FacebookでShenzhen Gotop Technologyは「製造業者/サプライヤー/輸出業者/卸売業者」となっており、製造と卸売りの両方を行っているとも見られています。


一方、Folsom & CoはInstagramやFacebookの投稿を中心にしてビジネスを行っています。アカウントは頻繁に街の写真や時計をつけたユーザーの写真をリポストしている様子が見られますが、これらのユーザーは「もっと露出したい」と考えるフォロワーが1000人未満の人物だと考えられています。Folsom & Co自体は何万人ものフォロワーを抱えているので、プロモーションと引き替えに露出を得ているといえます。


Folsom & Coの時計をレビューした人によると、出荷元はマレーシアや中国だったとのこと。購入者の中には、「Value $1.05」と書かれた箱を受け取った人もいたそうです。Folsom & Coが製造業者ではなく卸売業者であることを考えると、時計の出どころを特定するのは非常に難しくなります。

また、Folsom & Co、Soficoastal、Alexandria NYCといったウェブサイトがコピー&ペーストしたとみられる共通の文言を使っていることなどから、複数のサイトの運営は1つの集団によって行われていることが読み取れますが、この特定も困難。販売はドロップシッピングの形で行われており、サイト運営者は実際には時計を扱っていないためです。Folsom & CoのFAQページでは「偉大なアメリカの企業の多くと同じく、現在、私たちもアジアの倉庫から発送を行っています」と記されていますが、Folsom & Coが実際に所有している「倉庫」はありません。

Folsom & Coのビジネスモデルは明かなミスリーディングを含みます。製品を購入した多くのユーザーが「これはほとんど詐欺だ」と主張していますが、質問セクションで「10ドルをムダにするのはいいとして、銀行のアカウントを危険にさらしたくない」という発言をした人に対しSoficoastalは「私たちはカスタマーのクレジット番号を得ません。購入はStripeやPayPalを通じて安全に行われます」と述べており、売買自体は不正な方法で行われていません。また、時計にどのくらいの値段をつけるのかというのは人によりけりで、ある人が「29.99ドルだ」といえばその時計は29.99ドルという価格になります。厳密にいってFolsom & Coが行っていることは詐欺ではないからこそ、多くの人を怒らせることになっているといえます。Folsom & CoやSoficoastalはInstagramを使ってメッセージやストーリーを伝える、ブランドのストーリーテリング戦略の好例です。

ストーリーテリング戦略自体は新しいものではありません。J.クルーは2006年に閉店した作業着店の「Madewell」のブランドを利用してMadewell 1937を立ち上げました。Madewell 1937は本家Madewellが1937年創業だという事実を使って「1937年から」という形でブランディングを行い成功しましたが、本家Madewellはスタイルやデザインを重視するものではありませんでした。Madewell 1937はハイエンドの女性ブランドですが、本家Madewellは質が悪く、利益だけを目的に他者メーカーのデザインを模倣することもあったという、似ても似つかないブランドだったのです。

SoficoastalはFacebook上で購入者と非常に率直な会話をしています。「同じ時計を2ドル(約240円)で見つけたのですが」と語る購入者に対して「コーヒーを2~4ドル(約240~480円)で買ったことがありますか?ダンキンドーナツやスターバックスがコーヒーを作るのにそれだけの値段を必要としていると思いますか?それとも利益のために価格を上げていると思いますか?」「家でなら10セント(10円)でコーヒーを飲めます。これを資本主義と呼ぶんです」とSoficoastalは述べました。


テクノロジーが一般化した現代では、ドロップシッピングのネットワークやShopifyのテンプレート、Instagramアカウントなどを駆使することで「誰でもどんなストーリーでも語ることができる」ということを「無料時計」の例は示しています。

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in メモ, Posted by darkhorse_log

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