EUの改正著作権指令案は「企業が魔法の杖を生み出すことを強いている」という指摘
by Suzy Hazelwood
EUにおいて交渉が進められている改正著作権指令案は、リンクを貼るだけで著作権料がかかる「リンク税」やウェブサービスの厳格な著作権保護などを義務づけたものです。あまりにも厳格な規制のため、ネット上の表現が大きく規制されてしまうという懸念もあるEUの改正著作権指令案について、「無知な官僚によって企業が『魔法の杖』を生み出すことを強いられている」という指摘がされています。
Latest EU Copyright Proposal: Block Everything, Never Make Mistakes, But Don't Use Upload Filters | Techdirt
https://www.techdirt.com/articles/20181210/09323241194/latest-eu-copyright-proposal-block-everything-never-make-mistakes-dont-use-upload-filters.shtml
テクノロジーやビジネス分析についてのメディアであるTechdirtの編集者であるMike Masnick氏は、改正著作権指令案の中でも「SNSなどのコンテンツ・プラットフォームの提供者に対して、プラットフォーム内のコンテンツが著作権法に反していないようチェックし対応する義務を課す」という第13条について懸念しています。
Masnick氏は改正著作権指令案について、「改正案の作成に携わっている人々の大多数は、自分たちが実際にどういうものについて話しているのかわかっていないまま、曖昧なルールを推し進めようとしています。彼らは改正案によってどういう影響が出るのかすら理解していません」と強く非難しています。改正案の作成者たちは、たとえば専門家から「この法令によって『A』という問題が発生する」と指摘されても、「A」の内容について詳しく理解しないまま、改正案に「プラットフォームは『A』が発生しないようにする義務がある」と盛り込んでいるとのこと。
by Theophilos Papadopoulos
第13条にもとづいてプラットフォームはコンテンツの著作権を厳格に管理し、その一方で著作権を侵害していないコンテンツを削除しないことが求められています。さらに、改正案には「プラットフォームは著作権の自動識別フィルターの使用を可能な限り避ける」といった指針も示されていますが、これについてもMasnick氏は健全な政策策定ではないと非難しました。
自動フィルタリングなしで大量のコンテンツを識別することは不可能に限りなく近く、それでいて著作権を侵害していないコンテンツを残すことを、Masnick氏は「魔法の杖」だと表現しています。第13条は単に条文にあれこれと盛り込めるだけ盛り込んでおり、技術的バックグラウンドのない官僚が「著作権に違反していないコンテンツまで削除される危険性」があるならば、「著作権を違反していないコンテンツを削除しないように」と付け加える方式で危険性を回避しようとしているとのこと。官僚はそのような作業がどのようにして可能なのか全く説明しておらず、魔法の杖の開発を企業に丸投げしているとMasnick氏は指摘しています。
第13条では自動識別フィルターを利用するべきではないとしていますが、Masnick氏は著作権を侵害しているか否かの判断をフィルター以外で行う方法がもし存在するなら、その手法を明示するべきだと主張。それができない以上、この条文は単に官僚が企業に不可能を押しつけているだけだとしました。
そして、アップロードされたコンテンツの著作権法違反の責任がプラットフォームに課せられる以上、プラットフォームはこれまで以上に神経質なコンテンツの検閲を行わなければなりません。その結果、いくら条文で「著作権法に違反していないコンテンツを削除してはならない」と明記していようと、プラットフォームは新たなコンテンツのアップロードを一旦全てシャットアウトするか、ほんの少しでも疑わしいコンテンツを片っ端から削除していくかのどちらかを選択せざるを得ないとのこと。
by James Ledbetter
著作権違反かそうでないかを完璧に判断するフィルターや魔法の杖は存在せず、官僚が定めた改正案は完全に技術的バックグラウンドを無視しているとMasnick氏は述べています。加えて官僚たちは自らが規制しているもの、ルールの運用方法、ルールによる影響を全く知らないとのこと。何か問題点を専門家から指摘されれば、官僚はただ「問題を起こさないようにしなければならない」と書くだけで、問題を理解しようとさえしていないそうです。
「改正著作権指令案の問題点について、官僚や賛同する議員たちは何も心配していません。なぜなら彼らは法案が通りさえすればそれでお祝いすることができ、彼らが作り出した技術的な問題点を解決する義務を課せられるのは全てプラットフォームを提供する企業だからです」とMasnick氏は痛烈に指弾しました。
Masnick氏は多くの問題点を抱えたEUの改正著作権指令案について、「現状では拘束力のある規制にするべきではない」と考えています。現在議論されている内容はあまりにも不明瞭であり、「こんな条文を法律にすること自体が犯罪的な代物」だとのこと。EUは2019年の議会選挙を前に法案の可決を急いでおり、自らが何を変えようとしているのか理解しないまま社会の根幹をなすインターネットを大きく変えようとしていることは、信じられないほど恐ろしいとMasnick氏は考えています。
EUは企業が魔法の杖を持つことを一方的に要求し、「発生しうると予測される問題を発生させないようにする」という矛盾を抱えたルールを押しつけようとしています。Masnick氏は「EU内で第13条を完全に破棄するという常識が表れることを期待しています」と述べました。
by Matt May
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