廃炉になった核燃料再処理工場で除染・解体作業にロボットが活用されている
イングランド最北部に位置し、スコットランドに接するカンブリア州には、原子力発電所から出る使用済み核燃料を再処理するソープ再処理工場があります。1997年に稼働を開始した再処理工場は2018年11月でその役目を終えて解体が始まるのですが、高い放射線レベルを持つ核廃棄物の除染や解体作業には多くのロボットが導入されているようです。
Inside Sellafield's death zone with the nuclear clean-up robots - BBC News
https://www.bbc.com/news/business-46301596
ソープ(THORP)再処理工場は「熱酸化再処理工場」を意味する「Thermal Oxide Reprocessing Plant」の頭文字を取って名付けられた施設で、イギリスの政府外公共機関である原子力廃止措置機関が所有し、セラフィールド社が運営してきました。施設ではイギリス内外の使用済み核燃料を受け入れてMOX燃料を生産して90億ポンド(約1兆3000億円)の売上を上げてきましたが、2018年11月をもって運用が終了しました。
廃炉になった核施設の最大の問題は、高い放射線レベルに汚染された廃棄物をどのように解体して処分するかという点にあり、ソープ再処理工場の解体作業にもその問題が待ち構えています。人間は一度に4シーベルト(4000ミリシーベルト)を全身に浴びた場合、被ばくした人の半数が骨髄障害で死に至るといわれていますが、再処理工場に運び込まれた核燃料を解体して再処理の準備を行う設備「Head End Shear Cave」の線量レベルはなんと280シーベルト毎時にも達します。
外部に放射線が漏れ出すことを防ぐために、施設の内部を見るための窓には鉛を配合した厚さ1メートル以上のガラスがはめ込まれています。もちろん、とても人間が中には入れる状況ではないため、作業の大部分はリモートで操作するロボットが担当しています。
すでにロボットは施設の中に入れられており、オペレーターの注意深い操作で内部の洗浄作業に取り掛かっています。水と酸を使って付着した汚染物質を洗い流し続け、最終的に人間が内部に入って作業が可能な汚染レベルにまで除染が行われる計画です。原子力発電所の解体などを管理する原子力廃止措置機関(NDA)のメラニー・ブラウンリッジ氏は「施設をより効率的に除染するための優れた装置を探し続ける必要があります」と述べています。
これらのロボットは施設の解体のために開発されたもので、用途に合わせて大小さまざまなタイプが用意されているとのこと。以下のムービーに映っている、使用済み核燃料を冷却し続けるプール内部を除染する作業もロボットが担当しています。
また、この作業にはドローンが用いられることも。建物内部で定期的にドローンを飛ばし、施設内の放射線レベルをマッピングして除染作業に活用する手法が取り入れられているとのこと。作業を担当するBlue Bear社の技術は、日本の福島原子力発電所の除染作業にも活用されているようです。
意外にも思えるのが、このソープ再処理工場の解体作業には環境団体の「グリーンピース」が高い関心を寄せている点。施設の建設当時は手厳しい批判を展開したグリーンピースですが、この施設の解体ノウハウを用いることで他の原子力施設の廃止を推し進めるという方針を掲げているといいます。
ソープ再処理工場の解体が始まり、初期の除染作業には3年程度の時間が見込まれています。しかし、その先に待ち構える解体作業には数十年レベルの時間がかかるものとみられています。施設の解体が最終的に完了するのは2075年から2095年にかけての間と見込まれており、かかる費用は2018年時点の貨幣価値で40億ポンド(約6兆円)と試算されています。
そしてもちろん、解体によって発生した高レベルの核廃棄物をどのように最終処理するのかという問題も待ち構えています。イギリスでは、廃棄物をコンクリートやドラム缶に入れた状態で地下の岩盤層に保管する地層処分の方針を立てていますが、実際の最終処分地は全く決まっていない状況とのこと。
「無限のエネルギー」ともてはやされた核エネルギーが実用化されて半世紀がたち、古くなった施設の運用停止が始まると、人類は同様の問題に続々と直面する事になります。数百年から場合によっては数万年レベルで管理が必要な核廃棄物を、いったい誰がどのようにして管理し続けるのかという問題に、これから世界各国が知恵を絞らなければならない時代がやって来ます。
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