メモ

AIはもはや人間よりも高い独創性を手にし始めている

by Andreas Kontokanis

かつては一部のコンピューター科学者やプログラマーにしか扱えなかった人工知能(AI)は、今ではスマートフォンやスピーカーからも簡単にアクセスできるなど、日常的で身近な存在となっています。そんな中、ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授であるユヴァル・ノア・ハラリ氏が「Why Technology Favors Tyranny」というコラムの中で「人間特有のスキルだった『独創力』は、機械学習の登場によってAIのものになりつつあり、やがて無用な人間が登場するかもしれない」と警鐘を鳴らしています。

Yuval Noah Harari on Why Technology Favors Tyranny - The Atlantic
https://www.theatlantic.com/magazine/archive/2018/10/yuval-noah-harari-technology-tyranny/568330/


IBMのコンピューター「DeepBlue」が1997年に、当時チェスの世界チャンピオンだったGarry Kasparov氏を破りましたが、それ以後もチェスプレイヤーは新しく生まれ続けています。AIは才能ある人物を育成するために使われるものであり、人間とコンピューターで構成されるチームは、コンピューター単独よりも優れているといわれていました。

by Pedro Villavicencio

しかし、2017年12月6日に、DeepMindのAlphaZeroが世界最強のチェスプログラムと呼ばれたStockfishに勝利したことは大きな分岐点となりました。

世界最強の囲碁AI・AlphaGoがあらゆるボードゲームを学習できる「AlphaZero」に進化 - GIGAZINE


Stockfishは、これまでに行われたチェスの試合のデータを人間がセットアップすることで、世界最強のプログラムに進化しました。一方で、AlphaZeroは、人間がチェス戦略やデータを入力する必要がなく、「自分VS自分」で対戦を延々と繰り返し、機械学習によって独自のチェス戦略を編み出しました。AlphaZeroはStockfishと試合を100戦行いましたが、戦績は28勝0敗72引分けで、負けた試合は一戦もありませんでした。

AlphaZeroがチェスを一から学びはじめ、Stockfishとの試合に備えるまでに費やした時間はおよそ4時間といわれています。何世紀にもわたって、チェスは人間の知性がもつ栄光の1つと考えられていましたが、AlphaZeroは一切人間に手引きされることなく、たったの4時間で完全な無知から創造的な熟達に至りました。

AlphaZeroだけがクリエイティブなソフトウェアというわけではなく、創造性の高い一手を編み出せるチェスプログラムはAlphaZero以外にも多く存在します。近年、日本でもネット将棋を中心に「ソフト指し」が問題視されていますが、チェスの世界でもプログラムを利用したチートを行うプレイヤーが問題となっているとのこと。これを見分ける手段の1つとして、プレイヤーの選んだ一手がどれだけ独創的なのかを監視する方法がとられているそうです。つまり、少なくともチェスの世界においては、独創性はもはや人間ではなくコンピューターのものに取って代わられているとハラリ氏は指摘しています。


チェスの世界で起こっていることは、いずれ警察、医療、銀行業、その他多くの分野でも起こりうるといえます。例えば自動車の運転の場合、人間は運転している道路の交通規則の変化に対応できないため、違反を繰り返してしまいます。しかし、AIはすべての交通規則を一瞬で把握するため、うっかり運転を間違えてしまうことはありません。交差点で車両がぶつかりそうになっても、アルゴリズムで処理してしまうため、コミュニケーションを誤って衝突してしまう可能性は人間よりもはるかに小さいといえます。

また、世界保健機関(WHO)が新しい病気を発見したり、研究所で新しい医薬品を生産したりする場合でも、全世界の人間の医師が知識のアップデートを行うためにはかなりの時間を要しますが、AIであれば更新が一瞬で終わってしまいます。実際に、AIは既に医療分野に進出していて、Googleが電子カルテのデータから患者の健康状態を予測するモデルを開発しています。AIは「持続性」と「更新可能性」という2つの点で人間に勝っていて、医療の世界でも人間をAIに置き換えていくことは合理的だ、とハラリ氏は主張しています。

Googleが病院を訪れた患者の身に「次に何が起こるか?」を予測する技術を開発 - GIGAZINE


20世紀に子どもたちのための大規模な教育システムが確立されたように、21世紀には、AIの登場によってめまぐるしく変化していく世界に対応できるよう、大人を大規模に再教育するシステムも確立する必要がある、とハラリ氏は述べています。しかし、人間にとって変化は常にストレスとなり得ます。「持続性」「更新可能性」に加えて「独創性」を得たAIは人間に取って代わる存在として普及していき、雇用不足による失業問題だけではなく、新しいスキルの習得に疲弊し、世界の変動についていくことができないまま「役立たず」のレッテルを貼られる人も生み出されるだろう、とハラリ氏は予想しています。

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in メモ,   ソフトウェア, Posted by log1i_yk

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