人間の脳は成人してからでも「読み書き」の訓練を行うことで深い部位を再構成する柔軟性を持つ
by Aaron Burden
読み書きができないまま30代を迎えた脳であっても、わずか半年間のトレーニングを行うことで、小学1年生に相当する識字能力を身に付けられることが調査によって明らかになりました。これは、成人の脳がこれまで考えられてきたよりも柔軟であることを示しており、失読症(ディスレクシア)に関しても新たな見解が得られています。
Learning to read alters cortico-subcortical cross-talk in the visual system of illiterates | Science Advances
http://advances.sciencemag.org/content/3/5/e1602612
Max Planck Neuroscience on Nautilus: Learning to Read in Your 30s Profoundly Transforms the Brain
http://maxplanck.nautil.us/article/338/learning-to-read-in-your-30s-profoundly-transforms-the-brain
これまで、読み書きによって脳の大脳皮質が再構成され、視覚システムの領域が視覚と言語との間のインターフェースになると考えられてきました。しかし、マックス・プランク研究所とハイデラバード大学の研究チームによって、「読み書き」で再構成されるのは、これまでの想定とは異なり、視床や脳幹の深部脳構造をも含む部位であることがわかりました。
この事実は「非識字者」(読み書きができない人)の調査を行うことができたために明らかになりました。識字率が97%以上といわれるヨーロッパでは、無識字であるという事実を明かすことが難しく、被験者を集めることは困難でしたが、研究チームは識字率が7割程度のインドで実験を行うことで、被験者を集めることに成功しました。
読み書きの教育を担当したのは、被験者を集めたインド北部・ラクナウ市周辺の指導方法を身に着けた専門の教師。教える内容は、最初の1カ月はヒンディー語で用いられる文字・デーヴァナーガリーの基本46字の読み書き、2カ月目は2音節の単語を含む簡単な文章の読み書き、3カ月目は3音節の単語と文章の読み書きで、残り3カ月はより複雑な単語と基本的な文法規則でした。
by MIXTRIBE
教育の結果、被験者らは、小学1年生に相当するレベルの読み書き能力を得られたことがわかりました。プロジェクトリーダーのFalk Huettig氏は「この認識力の成長は、注目に値します。成人の脳が驚くほどに柔軟であることを示しています」とコメントしています。これまで新たな挑戦に素早く順応するのは大脳皮質だけだと考えられてきましたが、fMRIの検査では、視床や脳幹の深い部分でも再構成が行われていることがわかったとのこと。この結果は、年を取った非識字者に対する光明となっただけではなく、視床の機能不全が原因の1つと考えられている失読症の改善に対しても、新たな可能性を示すものとなっています。
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