スライド映写機の原型「幻灯機」は19世紀イギリスのNetflix的存在だった
スライド映写機の原型にあたる機械「幻灯機」は、ランプとレンズを使って、ガラスに描かれた画像を幕などに投影するもの。これまでも存在が知られてきた幻灯機ですが、ヴィクトリア朝の専門家であるエクセター大学のJohn Plunket氏によると、新たな調査で、これまで考えられていた以上に幻灯機が広く使われており、中流階級の家族はしばしば幻灯機をレンタルしていたことがわかりました。当時の幻灯機は、ちょうど2018年現在のNetflix的位置づけだったそうです。
Research news - Victorians enjoyed rudimentary version of Netflix, new research shows - University of Exeter
https://www.exeter.ac.uk/news/research/title_679542_en.html
Victorians Had Their Own Version of Netflix: 'Magic Lanterns'
https://www.livescience.com/63508-magic-lantern-victorian-netflix.html
幻灯機がどのようなものなのかは以下のムービーで触れられています。
Charles Dickens and the Magic Lantern - YouTube
長いレンズがついた幻灯機は側面にガラスのスライドを挿入できるようになっています。
挿入。
本体についているツマミを合わせると……
映し出す絵のピントを調整可能。
プロジェクターと同じく、光で適当な幕に投影を行います。
映し出された絵はこんな感じ。
絵の一部が動くようになっており……
アニメーションのように展開可能。
投影は専門の技師が行います。
そして、時にこの技師が音声やナレーションを付けることも。
幻灯機が登場したのは1500年代のことで、1800年代中頃には光学技術者や写真家、事務用品などを売っていた文具商人たちの間で幻灯機の貸し付けが広まることになります。1850年代には、これらの人々はステレオスコープの貸し付けも開始したとのこと。ステレオスコープはズレのある2枚の絵を左右の目に見せることによって三次元的な立体感を発生させる装置です。ヴィクトリア朝において幻灯機やステレオスコープを楽しむことは現代における「Netflixを楽しむこと」に相当したとPlunkett氏は述べています。
Plunkett氏が発見した最も初期の幻灯機の広告は1824年の新聞「Morning Post」に掲載されていました。これは、ロンドンのオックスフォード街の工学技術者が出した、「幻灯機が夕暮れをお届けします」というものでした。
また、時計職人であり工学技術者のThomas Bale氏は天文学・自然史・聖書・コミックなどに関するさまざまなスライドと共に幻灯機を貸し出していました。Bale氏にようにスライドと共に貸し出すことで、幻灯機を「夜の楽しみ」として定着させようとする起業家は少なくなかったとのこと。音楽や講演者とともにレンタルを行う人もいたといいます。
また、幻灯機のセットアップの方法も改良されていき、当初はろうそくの明かりで照らされていましたが、次第に、水素や酸素を入れた袋の中で石灰石を燃やして強い光を生み出すという方法も取られるようになりました。しかし、これは非常に危険な方法で、何件か爆発の報告もあがっています。このため、セッティングを行うために家に技師が呼ばれることも頻繁にあったとPlunkett氏は語っています。
しかし、このような幻灯機の上映会は手軽に行えるイベントではありませんでした。幻灯機のレンタルは中流階級にとって高価で、特に技師つきの場合は高くついたためです。月々1000円ほどで映像コンテンツが楽しめる現代から見ると、年月によって技術が進化することで、映像コンテンツは手に届きやすいものになったといえます。
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