サイエンス

イグノーベル賞を受賞した「法的文書が読みにくい理由の分析結果」をわかりやすくまとめるとこうなる


法律の条文や契約書などの法的な文章は通常の文章と比べて読みにくく感じます。この「法的文書の読みにくさ」の原因について分析したマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究が2022年のイグノーベル賞を受賞しました。受賞に際して研究チームのメンバーがMITにコメントを寄せていたので、研究内容と共にまとめてみました。

Poor writing, not specialized concepts, drives processing difficulty in legal language - ScienceDirect
https://doi.org/10.1016/j.cognition.2022.105070

Objection: No one can understand what you’re saying | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2022/legal-writing-understanding-0307

MIT cognitive scientists win Ig Nobel for shedding light on legalese | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2022/mit-cognitive-scientists-win-ig-nobel-shedding-light-legalese-0916

以下の文章は、日本の消費者契約法の一部です。この文章の中には「分量等」という言葉の定義を説明する文章が2カ所挿入されており、挿入文の長さによって文章全体が非常に読みにくくなっています。

消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量、回数又は期間(以下この項において「分量等」という。)が当該消費者にとっての通常の分量等(消費者契約の目的となるものの内容及び取引条件並びに事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況及びこれについての当該消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定される分量等をいう。以下この項において同じ。)を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる


消費者契約法の他の部分では、括弧で囲まれた「言葉の定義を説明する文章」の中にさらに括弧が存在するという構造の文章も存在しており、法的文書を読み慣れていない人にとっては非常に理解しにくいものとなっています。

前条の規定は、事業者が第三者に対し、当該事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介をすることの委託(以下この項において単に「委託」という。)をし、当該委託を受けた第三者(その第三者から委託(二以上の段階にわたる委託を含む。)を受けた者を含む。以下「受託者等」という。)が消費者に対して同条第一項から第四項までに規定する行為をした場合について準用する


文中に「言葉の定義を説明する文章」が挿入される例は日本の法的文書だけでなく、英語の法的文章にも同様に存在していることが以前から指摘されていました。また、英語の法的文書には他にも「文章がすべて大文字で記述される」「日常生活で用いられない専門用語が使われる」といった特徴があると考えられていたとのこと。MITの研究チームは法的文書に特異的な文章構成を調査するべく、学術的文書やブログ記事、フィクション、雑誌、ニュース記事、ウェブページなどの合計1000万単語以上に及ぶ文章を分析しました。

分析の結果、法的文書には「文中に『言葉の定義を説明する文章』が挿入される」「文章がすべて大文字で記述される」「日常生活で用いられない専門用語が使われる」「受動態で記述される」といった特徴があることが判明しました。さらに、同一内容について記した「法的文書の特徴を含む文章」と「法的文書の特徴を含まない文章」を用意して100人の被験者に読ませた結果、「文章がすべて大文字で記述される」「受動態で記述される」といった特徴は理解度に影響を与えず、「日常生活で用いられない専門用語が使われる」「文中に『言葉の定義を説明する文章』が挿入される」といった特徴は理解度を有意に下げることが明らかになりました。


法的文書の読みにくさの原因を分析した上記の研究は、2022年のイグノーベル賞にて文学賞を受賞しました。受賞に際して研究チームの一員であるエドワード・ギブソン氏は「弁護士が契約に文章を追加する場合、条件を文章の中に積み上げて文章を非常に長くしてしまう傾向があります。このような文章は人間に取って理解するのが困難なものです。それらは別々の文章に分解されるべきです」とコメントしています。また、同じく研究チームの一員であるエリック・マルティネス氏は「これらの文章は、弁護士にすら読みづらいものです」と述べ、法的文書は読み慣れた人にとっても理解しにくいものであると指摘しています。

なお、2022年のイグノーベル賞は日本人研究者による「円柱形つまみの回転操作における指の使用状況について」など、数多くの興味深い研究に対して授与されています。2022年のイグノーベル賞受賞者および研究内容の概要は、以下の記事で確認できます。

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in サイエンス, Posted by log1o_hf

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